世界の料理図鑑 エチオピア
キトフォ
ክትፎ キトフォ Kitfo
料理名の意味は「細かく刻む」。名前がそのまま調理法になっている。
牛の赤身を包丁で極細に叩き刻み、溶かしたニテル・キベ(香辛料入り澄ましバター)とミトミタで和えた一皿。生です。
タルタルステーキに似ていますが、決定的に違うのは温かいこと。バターを溶かして混ぜるので、体温に近い温度で出てきます。
ひと口目はバターの香りと、ミトミタの刺すような辛さ。そのあと肉が舌の上でほどけていく。噛むという感覚がほとんどありません。
- 国・地域
- エチオピア。グラゲ(Gurage)地方が本家
- 分類
- 生肉料理
- 相場
- 200〜1,608ブル(約200〜1,600円)
- 主な材料
- 牛の赤身、ニテル・キベ、ミトミタ、カルダモン。アイブ(白チーズ)とゴメン(青菜)を添える
- 辛さ
- 辛い。ベルベレより直線的で鋭い
- 食べる場所
- アディスアベバのグラゲ系レストラン、カザンチス地区
- ベスト時間
- 9月27日のメスケル(真の十字架発見祭)。断食明け
- 一人前の目安
- 一皿を1〜2人で
- 食べ方
- 右手で、アイブとゴメンと一緒にすくう。3色を一度に取る
- 近い料理
- ゴレッド・ゴレッド(刻まず角切りの生牛肉)
01一口目に来るもの
運ばれてきた瞬間、湯気は立っていません。でも器に触れると温かい。溶かしたバターと混ぜてあるからです。
ひと口目に来るのは温かいバターの香りと、ミトミタの鋭い辛さ。ベルベレの複雑な辛さとは違って、もっと直線的に刺してくる。
生肉ですが生臭さはほとんどありません。極細に刻んであるので、噛むというより舌でほどける。脂と一体化していて、タルタルステーキよりずっと濃厚です。
カルダモンの清涼感が後を引く。そこへアイブ——自家製のカッテージチーズのような白いもの——を一緒に取ると、酸味とミルク感が辛さを中和して口がリセットされます。
この赤・白・緑(肉・アイブ・ゴメン)を一度にすくうのが正しい食べ方です。

02名前が調理法そのもの
キトフォという語は、エチオピア・セム語系の三子音語根 k-t-f=「細かく刻む」から来ています。
つまり料理名ではなく動作名が定着したもの。フランス語のタルタルが地名由来なのとは対照的です。
作り方は単純ですが、精度が要る。牛の赤身を包丁で叩き刻む——ミンサーは使わないのが伝統です。
ミトミタはバードアイ唐辛子(ピリピリ)にカルダモンの種、クローブ、塩を合わせたもの。ベルベレより辛く、色は橙赤。
難しいのは温度です。バターが冷えて固まると口当たりが台無しになる。だから出てきたらすぐ食べる。


三つの焼き加減
生が不安な人のために、エチオピアには段階が用意されています。
ティレは完全な生。最も一般的です。レブレブは表面だけ軽く温めた半生。初めての人はこれを頼むのが定番。イェベセレは完全に火を通したもの。
店で「レブレブで」と言えば通じます。生食のリスクは実在するので、無理をする必要はありません。エチオピアでは有鉤・無鉤条虫症の蔓延が公衆衛生上の課題として知られていて、教材でも生肉食が危険因子として挙げられています。
第 二 章
グ ラ ゲ の 料 理
南部の一民族の食べ物が、首都の名物になった
03グラゲ族の料理
キトフォはグラゲ(Gurage)族の伝統料理です。エチオピア南部・中部のグラゲ地域が本家。
グラゲ流ではインジェラの代わりにコチョで食べます。エンセーテ(偽バナナ)の幹を発酵させて作る厚い平パンで、これもグラゲの食文化の中心にあるものです。
9月27日のメスケル——真の十字架発見祭——の祝祭料理として特に重要。グラゲの祭では欠かせません。
グラゲ族はキトフォとコチョの担い手であると同時に、エチオピア随一の商才で知られています。アディスアベバの飲食業界で大きな存在感を持っていて、そのことがキトフォを全国区にしました。


キトフォは高級料理ではない。だが敬意をもって扱われる。キトフォの位置づけについて、よく言われること
04種類を並べてみる
焼き加減と添え物で名前が変わります。



05いくらで食べられるか
エチオピア料理のなかでは高いほうです。生食なので鮮度の要求が高く、当日屠畜の肉を使う店が多い。
06どこで食べるか
アディスアベバ:トトット・トラディショナル・レストラン(ボレ副市、アンベッサ・ガレージ)がグラゲ系キトフォの代表格です。ゲルジにも店舗があります。
カテグナ・レストランはキトフォとゴレッド・ゴレッドをメニューに明記しています。アディス・ミックス(サミット)、アズメラ・シロ(ボレ)も。
カザンチス地区は肉屋と深夜営業の食堂が集まるエリア。鮮度で選ぶならここです。
断食日には出ません。断食明けに真っ先に食べられる一皿です。



07豆知識
料理名が動詞。キトフォは「刻む」という意味の語根から来ています。何を刻むかも、どう味付けするかも名前に入っていない。刻むことそのものが料理名になっている珍しい例です。
グラゲ族はエチオピアの商業を支えている。キトフォが全国区になったのは、グラゲの人たちが首都で飲食業を広げたからです。料理の伝播には、だいたい人の移動がある。
「レブレブで」と言えばいい。生が不安なら半生を頼めばいいし、完全に火を通すこともできる。無理をして生を食べる必要はまったくありません。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Kitfo.jpg / 不明 / CC BY-SA 2.0
- 02/Kitfoo.jpg / Minarate / CC BY-SA 4.0
- 03/Kitfoo in Gurage.jpg / Minarate / CC BY-SA 4.0
- 04/Kitfo, Ayib and Injera.jpg / Lelaw Wondimu / CC BY-SA 4.0
- 05/Kitfo (ክትፎ).jpg / Vipon8 / CC0
- 06/Kitfo (Ethiopian Tartar).jpg / Michael T. / CC BY-SA 2.0
- 07/Gored gored plate, July 2019.jpg / Thomson200 / CC0
- 08/Ethiopia traditional food.JPG / Yjohny / CC BY-SA 4.0
- 09/Ethiopia most popular food.JPG / Yjohny / CC BY-SA 4.0
- 10/Tabat (ጣባት) 01.jpg / Melat30 / CC BY-SA 4.0
- 11/Tabat (ጣባት) 02.jpg / Melat30 / CC BY-SA 4.0
- 12/SUNP0990.JPG / Nahom / CC BY-SA 4.0
- 13/Harar, Ethiopia – 52015155302.jpg / Ninara31 / CC BY 2.0
- 14/I was not brave enough for Kitfo… – Flickr – Dave Proffer.jpg / Dave Proffer / CC BY 2.0




