世界の料理図鑑 エチオピア
ティブス
ጥብስ ティブス Tibs
炭火を入れた器ごと運ばれてくる。ワットが「煮」なら、ティブスは「焼」だ。
語義は「炒めた(焼いた)肉」。牛・羊・山羊を、玉ねぎとトマトと青唐辛子と一緒に、ニテル・キベで強火で炒めます。
ひと口目は焼き目の香ばしさと、はじける熱い脂。ワットのような煮込みの深さではなく、直球の焼き肉です。
面白いのはこの料理の出自です。18世紀のヨーロッパ人宣教師が「特定の人物に敬意を示すために供される焼き肉」と記録している。もともと日常食ではありませんでした。
- 国・地域
- エチオピア全土
- 分類
- 焼き肉・炒め肉
- 相場
- 120〜1,608ブル(約120〜1,600円)
- 主な材料
- 牛・羊・山羊、玉ねぎ、トマト、青唐辛子、ニテル・キベまたは油、ローズマリー
- 辛さ
- 青唐辛子の青い辛さ。アワゼ・ティブスははっきり辛い
- 食べる場所
- アディスアベバのカザンチス地区、全国の食堂
- ベスト時間
- 夜。客が来たときに出す料理
- 一人前の目安
- 一皿を2人で
- 食べ方
- 右手でインジェラごとつまむ。シェクラは共有の器から各自が取る
- 近い料理
- クァンタ(乾燥させた香辛料漬けの牛肉)
01一口目に来るもの
シェクラ・ティブスで頼むと、素焼きの器の下に炭を入れたまま運ばれてきます。テーブルの上でまだ音を立てている。
ひと口目は肉の焼き目の香ばしさ。噛んだ瞬間に熱い脂がはじけます。
そこに玉ねぎとトマトのわずかな酸味、ローズマリーの樹脂のような香り、青唐辛子の青い辛さが抜けていく。ローズマリーというのが意外ですが、これが現地の定番です。
食感は外は香ばしく、中は歯ごたえが残る。デレク・ティブス(乾いたタイプ)はさらに水分が飛んで、ジャーキーに近い噛み応えになります。
ワットが「煮」なら、ティブスは「焼」。同じ大皿に載ると対比がはっきりするので、注文するときは両方頼むといい。

02強火で、一気に
作り方は単純です。肉をニテル・キベまたは油で強火で炒める。玉ねぎ、トマト、青唐辛子を一緒に。
香りの決め手はローズマリー。実際のレストランのメニューにも「肉、玉ねぎ、ニンニク、油、ローズマリー、ハラペーニョ」と書かれています。
失敗の理由は三つ。肉を入れすぎて鍋の温度が落ち、焼きではなく蒸し煮になること。キベを焦がすこと。炒めすぎて硬くなること。
ソースを作らないか(デレク)、少量残すか(ワット寄り)で、名前も食感も別の料理になります。


18世紀の記録に残っている
ティブスは18世紀まで遡る記録が残る、数少ないエチオピア料理です。
ヨーロッパ人宣教師レメディウス・プルトキーが、「特定の人物に敬意を示すために供される焼き肉の一皿」と記述しています。
つまり元来は日常食ではなく敬意の表明としての料理。今も祝祭や特別な行事、客が来たときに出す性格を保っています。
外国人が最初に文字にしたエチオピア料理のひとつ、という点でも面白い。
第 二 章
肉 が 戻 っ て く る 日
断食が明けたことを、最も直接に体で知る一皿
03肉屋がそのまま食堂になる
アディスアベバにはケラ・ベット——肉屋——がそのまま食堂を兼ねている業態があります。
店頭にぶら下がった肉を自分で選ぶ。すると奥で焼いてティブスにしてくれる。鮮度を自分の目で確かめてから注文するという、極めて合理的なシステムです。
カザンチス地区がその本場。肉屋と深夜営業の食堂が集まっていて、夜になると煙が上がります。
チャーチル通りは夕方から焼きとうもろこしや焼肉の露店が並ぶ。ティブスは夜の食べ物です。


特定の人物に敬意を示すために供される焼き肉の一皿。18世紀、宣教師レメディウス・プルトキーによるティブスの記述
04種類を並べてみる
ソースの有無、肉の切り方、器で名前が変わります。



05いくらで食べられるか
ドロワットとほぼ同じ価格帯です。部位と肉の種類で上下します。
06どこで食べるか
アディスアベバ:カザンチス地区がティブスの本場です。肉屋と食堂が集まっています。
アディス・ミックス(サミット)にはティブス専用のセクションがあります。アレム・シロ(ボレ・アトラス)、アズメラ・シロ(ボレ)、ヨド・アビシニア、2000ハベシャも。
ラリベラ:ベン・アベバ。螺旋状の建物そのものが名物で、スコットランド料理とのフュージョンも出します。
断食日には出ません。断食が明けたことを最も直接に体で知る一皿です。


07豆知識
「デレク」は「乾いた」という意味。ソースがないので手が汚れにくいという実用面もあります。ズィルズィル(帯)、シェクラ(器)と、名前がそのまま特徴を表しているのがティブスの分かりやすいところです。
肉屋で選んでから焼いてもらえる。ケラ・ベットという業態が今も残っています。日本の魚屋で刺身にしてもらうのと同じ発想です。
ローズマリーが定番。エチオピア料理というとベルベレの印象が強いですが、ティブスに関しては地中海的なローズマリーの香りが効いている。ここだけ味の系統が違います。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Tibs in Yod Abyssinia.jpg / Jean Rebiffé / CC BY-SA 4.0
- 02/Siga Tibs.jpg / Khajitdadddy / CC BY-SA 4.0
- 03/Shekla tibs.jpg / Betselot Yergalem / CC BY-SA 4.0
- 04/Shekla Tibs.jpg / Betselot Yergalem / CC BY-SA 4.0
- 05/Mutton tibs and injera.jpg / ShanaliCT / CC BY 4.0
- 06/Tibs 1.jpg / Sofia.jahn / CC BY-SA 4.0
- 07/Tibs and Injera.jpg / Khajitdadddy / CC BY-SA 4.0
- 08/Tibs.JPG / Liyaan41 / CC BY-SA 4.0
- 09/Kulalit Tibs.jpg / Yohannes Bogale / CC BY-SA 4.0
- 10/Person Enjoys Tibs.JPG / Lonaoui-a / CC BY-SA 4.0
- 11/Sahring Shiro and Tibs in Zweye, Ethiopia.JPG / Joannekinginaddis / CC BY-SA 4.0




