世界の料理図鑑 エジプト
コシャリ
كشري コシャリ Koshary
炭水化物の上に炭水化物。それを酸っぱいタレで締める。2025年、ユネスコ無形文化遺産になった。
米、マカロニ、レンズ豆、ひよこ豆を一皿に盛り、上に揚げ玉ねぎをどっさり。そこに三種のソースをかけて、底から徹底的に混ぜる。
ひと口目は揚げ玉ねぎの甘い焦げ香とカリカリ感。次にトマトソースの穏やかな酸味、そして米・パスタ・豆の三層が口の中でほどけます。
ダッアという酸っぱいタレをかけると、ニンニクと酢の鋭い酸味が立ち上がり、味が一気に締まる。これがコシャリの正体です。
- 国・地域
- エジプト全土
- 分類
- 米+パスタ+豆の混ぜ料理
- 相場
- 20〜105エジプトポンド(約64〜337円)
- 主な材料
- 米(バーミセリ入り)、マカロニ/ペンネ、茶レンズ豆、ひよこ豆、揚げ玉ねぎ、トマトソース、ダッア、シャッタ
- 辛さ
- シャッタ(辛味ソース)を自分で足す。基本は辛くない
- 食べる場所
- カイロのダウンタウン。コシャリ専門店が街じゅうにある
- ベスト時間
- 昼。労働者の昼食
- 一人前の目安
- サイズは小・中・大から選ぶ
- 食べ方
- ソースをかけて、スプーンで底から混ぜる。パンは付けない
- 近い料理
- インドのキチュリ(語源とされる)
01一口目に来るもの
運ばれてきた時点では、まだ層になっています。下に米、上にパスタ、その上に豆、頂上に揚げ玉ねぎ。
ここで層のまま食べるのは観光客の食べ方です。まずソースをかけ、スプーンで底から徹底的に混ぜる。
ひと口目は揚げ玉ねぎの甘い焦げ香とカリカリ感。次にトマトソースの穏やかな酸味が来て、米とパスタとレンズ豆の三層の炭水化物が口の中でほどけます。
ダッア——ニンニク、クミン、コリアンダー、チリを酢とレモン汁で溶いた、加熱しないタレ——をかけると、鋭い酸味が立ち上がって味が締まる。これがないとただの炭水化物の山です。
シャッタ(唐辛子ソース)で辛味を足すと、後半にクミンの土っぽい香りが残ります。

02三つのソースが本体
コシャリの店を選ぶ基準は、米でもパスタでもありません。ソースです。
サルサ(トマトソース):トマトペーストにニンニク、クミン、コリアンダー、チリ、砂糖、酢。
ダッア:ニンニク+クミン+コリアンダー+チリ+酢+レモン汁。加熱しない。これがコシャリの決め手です。
シャッタ:唐辛子ベースの辛味ソース。別添え。
三種とも店ごとに秘伝で、エジプト人は「あの店のダッアじゃないとダメ」と店を選びます。ソースが店の個性のほぼ全てと言っていい。


揚げ玉ねぎで決まる
家で作るときに最も差が出るのが揚げ玉ねぎです。
低温で長く揚げないと苦くなる。水分が残るとカリカリになりません。時間をかけて、じっくり。
もう一つの失敗は米とパスタを同時に茹でること。全体がベタつきます。別々に茹で、パスタは硬めに。
そしてダッアの酢を控えないこと。控えると全体が単調で重くなります。



第 二 章
ダ ウ ン タ ウ ン の 店
カイロの下町には、コシャリだけを出す店が並んでいる
03古代エジプトではない
コシャリはよく「古代からの料理」と紹介されますが、これは誤りです。19世紀末から20世紀初頭にエジプトで成立した近代料理です。
学術的に最有力なのはインド由来説。ヒンディー語などのキチュリ(khichri)——豆と米を混ぜた料理、「ごちゃ混ぜ」の意——が語源とされ、英領インド軍のインド人兵士が1882年の英国占領から第一次大戦期にかけて持ち込んだ、という筋書きです。
イタリア由来説はパスタの部分を説明します。20世紀前半、アレクサンドリアやカイロには多数のイタリア系コミュニティがいました。この二つは対立ではなく、層をなす複合説として理解するのが正確です。
文献上の初出は1853年。探検家リチャード・バートンが、スエズの朝食として「エジプトのレンズ豆、米、バター、玉ねぎ、塩漬けレモン」を記録しています。ただしパスタは含まれておらず、今の形とは別物です。
ネット上には「古代エジプトで Koshir と呼ばれ神々の儀式の食べ物だった」という説が流布していますが、根拠とされる文献に該当記述は確認できず、信用できません。
2025年12月、ユネスコ無形文化遺産の代表一覧表に記載された。エジプトの国民食が国際的に公認された
04種類を並べてみる
基本は同じですが、サイズと店の系統で呼び分けられます。



05いくらで食べられるか
エジプトでいちばん安く腹が満ちる一皿です。ただし近年の値上がりは激しい。
2016年の通貨切り下げ前は、小5〜大9エジプトポンドでした。小サイズは300パーセント、並サイズは733パーセントの上昇です。
06どこで食べるか
カイロ:コシャリ・アブー・ターレク(ダウンタウン、Maarouf St×Champollion St交差点)。1950年代創業の代表格です。
コシャリ・エル・タハリールはダウンタウン、ドッキ、マアーディ、ニューカイロほか全国16支店。標準40、トップ50、ラージ60、キングサイズ75エジプトポンド(14パーセント税込)。
ズーバ(ザマレク、26th July St)はモダン・エジプト料理店で、MENA’s 50 Best Restaurants 2026で32位に入っています。
ルクソール:ソフラ。旧市街の邸宅を改装した伝統料理店です。
頼み方は「コシャリ・ワサト(中サイズ)」。サイズは小(サギール)/中(ワサト)/大(キビール)。「ダッア・ケティール」でダッア多め、「シャッタ」で辛いのをくれます。


07豆知識
2025年12月、ユネスコ無形文化遺産に記載された。エジプトの国民食が国際的に公認されました。
肉を使わないので、キリスト教徒(コプト)の断食期にも食べられる。ムスリムもコプトも同じ皿を食べる、宗教を超えた国民食です。
2019〜2021年、1皿3エジプトポンドで提供する慈善イニシアティブがあった。「ファティマ・コシャリ」。現在の20分の1以下の値段です。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Kushari.JPG / SirJman / CC BY 3.0
- 02/Egyptian Food.jpg / Dina Said / CC BY-SA 4.0
- 03/Cairo 11.jpg / Wael Ghabara / CC BY-SA 3.0
- 04/Koshari tahrir.jpg / Flickr user: Furibond https://www.flickr.com/photos/furibond/ / CC BY-SA 2.0
- 05/Cairo koshary.jpg / Arria Belli / CC BY-SA 2.0
- 06/Egyptian Koshari.jpg / Basma / CC BY-SA 4.0
- 07/Abu tariq koshari.jpg / Morios / CC BY-SA 3.0
- 08/Flickr – Gaspa – Cairo, Abou Tarek restourant.jpg / Francesco Gasparetti from Senigallia, Italy / CC BY 2.0
- 09/Battle of Tahrir Square – Flickr – Al Jazeera English (123).jpg / Al Jazeera English / CC BY-SA 2.0
- 10/1001 Arabic words, Charity dinner – 2016, 08.jpg / DžinDžek / CC BY-SA 4.0
- 11/1001 Arabic words, Charity dinner – 2016, 10.jpg / DžinDžek / CC BY-SA 4.0
- 12/Largest Koshary 1.jpg / Mohamed Ouda / CC BY-SA 4.0
- 13/Annie eat Kushari.JPG / Faris knight / CC BY-SA 3.0






