
カリ・プレ
Cari poulet
黄色いのに、辛くない
レユニオン島の食堂で何も指定せずに「いつもの」を頼むと、たぶんこれが出てくる。皿の半分に白いご飯、その隣に豆の煮込み、真ん中に黄色い鶏の煮込み、そしてわきに小さく、生の薬味。カリ・プレ(cari poulet)は、この島でいちばん食べられている一皿だ。
見た目はカレーに近い。実際、カリという言葉はインドのカレーと語源を共有している。ところが口に入れると、辛くない。黄色いのは唐辛子ではなくターメリック(島では「サフラン・ペイ」と呼ぶ)の色で、辛味はいっさい入っていない。辛くしたい人は、卓上のルガイユやピマン・ラ・パットを自分の皿にだけ足す。
作り方もインドのカレーとは違う。粉のミックススパイスを大量に使うのではなく、玉ねぎ・にんにく・生姜・トマトを炒め、ターメリックとタイムを入れ、鶏を入れて蓋をして蒸し煮にする。観光局の公式レシピを見ても、水を足すという工程が出てこない。鶏とトマトから出た水分だけで煮る。だから煮汁は少なく、濃い。
この一皿には、島の来歴がそのまま入っている。フランスの煮込みの作法、インドから来たターメリックと生姜、中国系移民が持ち込んだ火加減、そしてマダガスカルや東アフリカから来た人たちが持ってきた根菜と豆。17世紀まで無人島だったこの島では、鍋の中身が全部よそから来ている。
値段は食堂で11〜16€、持ち帰りならもう少し安い。フェルム・オーベルジュ(農家レストラン)で薪火のマルミット(大鍋)で炊いたものを頼むと、同じ料理がまったく違う匂いになる。
鍋の中身

煮汁の寄りじゃがいもと一緒に煮えたカリ・プレ。煮汁は少なく、鶏とトマトから出た水分で煮る(2024年撮影)
一口目
味
塩気と鶏の脂、そのうしろにターメリック
辛さはない。最初に来るのは塩と鶏の脂で、そのあとにターメリックの土っぽい香りとタイムが追いかけてくる。トマトの酸味はごく控えめで、煮詰まってうま味の側に回っている。
食感
骨からほろりと外れる
長く煮るので、肉は繊維がほどけて骨から外れる。じゃがいもは角が崩れかけ、煮汁を吸ってねっとりする。白飯と混ぜるとちょうどいい重さになる。
香り
ターメリックとタイム
皿が来た瞬間はターメリックの匂いが立ち、食べているうちにタイムの青い香りが出てくる。コンバヴァ(コブミカン)の皮を削り入れる家では、ここに柑橘の鋭い香りが加わる。


作り方
1観光局の公式レシピでは、鶏1羽に対してターメリック小さじ1/2。市場では粉の山から量り売りされている。入れすぎると苦くなるので、色がつく程度でいい。
島では「safran(サフラン)」と呼ぶが、本物のサフランとは別物にんにく4片と塩・こしょうをすり鉢でつぶしてペーストにする。トマト4個、中玉ねぎ2個、生姜1片は細かく切っておく。
すり鉢でつぶすところまでが下ごしらえ
3油を熱して鶏のぶつ切りを焼き、玉ねぎとにんにくのペーストを加えて炒める。そこへターメリック、タイム、最後にトマトを入れて全体を混ぜる。
薪火で炊く店もある。ガスより薪のほうがうまいと言う人は今も多い
4蓋をして約15分煮込む。水は足さない。煮汁は「十分な量で、ただし濃く」と公式レシピに書かれている。仕上げに浮いた余分な油をすくう。
じゃがいもを入れる場合は、煮汁が煮詰まる前に加える白米と豆(赤インゲンかレンズ豆)を添えて出す。豆はカリの脇に置き、混ぜながら食べる。辛味は卓上のルガイユで各自が足す。
「grains(豆)」を頼まないと、島の人から見ると皿が半分足りないこの一皿の来歴
最初の定住
レユニオンには先住民がいなかった。フランス人と、マダガスカルから連れてこられた人々の定住から島の食が始まる。
コーヒーと奴隷制
島はコーヒーの島になり、東アフリカ・マダガスカルから多くの人が連れてこられた。根菜と豆の食べ方はこの時代に定着する。
奴隷制廃止
労働力としてインド(主に南インド)から契約労働者が渡ってくる。ターメリック、生姜、マサラの配合が台所に入る。
中国系・グジャラート系の到来
商店と食堂が増え、醤油と炒めものの技術、そして蒸し餃子のブションが加わる。
島でいちばん普通の一皿
食堂でも家庭でもフェルム・オーベルジュでも出る。観光局は公式サイトでレシピを公開している。
カリという料理を説明するとき、いちばん間違えられやすいのが「カレーの一種」というひとことだ。語源は共有している。インドの kari が、フランス語圏の島でcariになった。けれど作り方を並べてみると、両者は途中で完全に別れている。
インドのカレーは、複数のスパイスを油で立ち上げ、その配合そのものが料理の設計図になる。レユニオンのカリはそうではない。使うのは基本的にターメリック、生姜、にんにく、タイム。ここに玉ねぎとトマトを合わせて、あとは火加減で持っていく。観光局の公式レシピにも、粉のミックススパイスは出てこない。
そのかわりに、フランスの煮込みの作法がはっきり残っている。肉を油で焼きつけてから、香味野菜を炒めて、蓋をして煮る。水を足さない。仕上げに浮いた油をすくう。これはブフ・ブルギニヨンやドーブの手順とほとんど同じで、実際、赤ワインを入れると同じ料理の名前が「シヴェ(civet)」に変わる。フランス語の語彙が、そのまま島の台所に残っている。
では何が「島のもの」なのか。ひとつはターメリックだ。島で栽培され、市場では粉の山で売られていて、地元では「サフラン・ペイ」と呼ばれる。もうひとつは、辛味を鍋に入れないという設計。カリそのものは辛くなく、辛さは別皿のルガイユで各自が足す。これは、辛いものが苦手な人と平気な人が同じ鍋を囲むための工夫でもある。
そして最後に、皿の並べ方。白飯・豆・カリ・ルガイユ。この4点セットは「riz-grains-cari」と呼ばれ、フランス本土の定食とも、インドのターリーとも違う。だれかひとりの文化ではなく、17世紀以降にこの島に集まった人たちが、少しずつ持ち寄って組み立てた形が、いまも毎日の昼ごはんとして続いている。


カリの語源やインド料理との関係は、諸説あるうちのよく語られている説をもとに書いている。作り方は2026年9月時点のレユニオン観光局の公式レシピに沿った。
この一皿の余話
「カリ」はタミル語の「煮込み」から来ている
フランス語の curry でもインド英語の curry でもなく、この島の cari の語源はタミル語の kari(煮込み)だとされている。同じ語がインド洋を渡って、イギリス経由では「カレー」に、この島では「カリ」になった。だから発音も「カレー」ではなく「カリ」に近い。島の人が「カリ」と言うとき、それは特定の香辛料ミックスの名前ではなく、煮込みという調理法そのものを指している。
白米が主食になったのは、意外と最近のこと
いまの島の食卓は白米が中心だが、第二次世界大戦の前まではとうもろこし、パン、キャッサバ、ヤム芋なども並ぶ、もっと雑多なものだったと言われている。米そのものは1663年から栽培の記録があり、1667年にはフランソワ・マルタンという人物が「この島では米がよく育つ」と書き残している。1840年ごろにはベンガル種やマンガロール種が持ち込まれた。いまの「米+豆+菜っ葉+カリ」という4点セットは、そう古い形ではない。
「ルガイユ」の語源は、刻んだ青い果実
卓上に置かれる辛い薬味ルガイユ(rougail)は、タミル語の ouroukaille に由来すると説明されることが多い。もとの意味は「刻んだ青い果実を唐辛子とレモン汁で和えたもの」。いまでもトマトやマンゴーの青いもので作るルガイユが残っていて、語源のとおりの姿をしている。ただし「ルガイユ・ソシス」のように、煮込み料理の名前としても使われるので、島では二つの意味が同居している。
短い話
- 1カリ・ルガイユ・シヴェは別物ターメリック中心の黄色い煮込みがカリ、赤ワインや強い煮詰めを使うのがシヴェ、生の薬味または軽い煮込みがルガイユ。メニューで並んでいたら、この3語で見当がつく。
- 2「グラン」は乾いた豆のことレンズ豆、赤インゲン、白インゲンなど。アフリカ、マダガスカル、アジアの習慣が混ざった一皿で、日持ちする食材として船の暮らしとも結びついている。
- 3「ブレッド」は1734年には記録がある炒めた葉物のこと。インド・ポルトガル系の言葉で、肉を買えない家の菜として広まった。シュシュの若葉、かぼちゃの葉、白菜など、なんでもブレッドになる。
- 4鍋の名前は「マルミット」厚手の大鍋。日曜は薪火にこれをかける。ガスより薪のほうがうまい、と言い切る人はいまも多い。
- 5辛味は鍋に入れないカリそのものには唐辛子を入れないのが基本。辛さは食べる人が卓上のルガイユで足す。だから同じ鍋を子どもも食べられる。
- 6鶏は骨つきのままぶつ切りのまま煮るので、骨のまわりから味が出る。手で持って食べてかまわない。

食べに行く前に
注文のことば
昼は11時半から14時ごろまで。持ち帰り(à emporter)にすると容器で渡してくれるので、海辺のピクニック台で食べる人が多い。
値段と覚え書き
| 食堂・持ち帰り店 | 11〜16€約1,900〜2,800円 |
| 持ち帰り(容器入り) | 9〜13€約1,600〜2,300円 |
| フェルム・オーベルジュ(薪火) | 18〜28€約3,100〜4,900円 |
- 「カリ」はメニューでは cari / carri / carry と3通りに書かれる。どれも同じ料理
- 黄色いが辛くない。辛さは卓上のルガイユかピマン・ラ・パットで自分の皿に足す
- 豆(grains)は別料金ではなく、たいてい最初からついてくる。ついてこない店では頼む
- 赤ワインを入れて煮ると「シヴェ(civet)」という別の名前になる。色が濃いほうがシヴェ
- コンバヴァ(コブミカン)の皮を削り入れた poulet combava は、同じ鶏でも香りがまったく違う
- フェルム・オーベルジュでは薪火のマルミットで炊く店がある。予約が要ることが多い
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Île de la Réunion Tourisme「Recette Cari poulet」 材料・手順・加熱時間・盛りつけ
- Île de la Réunion Tourisme「Recettes créoles réunionnaises」 カリとシヴェの区別、レシピ一覧
写真の出典(11枚)
写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 白い角皿に盛られた鶏のカリ、じゃがいも、白飯、豆|Arnaud 25/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- じゃがいもと一緒に煮えた黄色いカリ・プレの鍋|Arnaud 25/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤い煮汁をまとった鶏のカリのアップ|plume_d_argent de monilemapassion.com/CC BY-SA 3.0/2008年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 白飯、赤インゲン豆、鶏のカリ、ルガイユを盛りつけた一皿|Tchaosy / Sung-Yee TCHAO/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- チェックのクロスの食卓に置かれたカリの鍋と、白飯やルガイユをのせた皿、ワイングラス|ADIKT gameboy / gamebouille/CC BY 2.0/2007年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 鮮やかな黄色のキュルキュマ(ターメリック)の粉の山|Guilleron/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 薪の煙の上がる鍋から湯気を立てる煮込みと白飯の皿|Tchaosy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- アルミの両手鍋に盛られた黄色いカリと白いご飯|BBCLCD/CC BY-SA 4.0/2018年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 大きな鍋にカリと白飯を並べたレユニオンの食卓|Bbb/CC BY-SA 3.0/2010年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 白い皿に盛った鶏のカリ、じゃがいも、豆、白飯|Arnaud 25/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- さやのままのグラン(豆)が山盛りになった売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)


