鍋いっぱいに煮えたカブリ・マサレのアップ
レユニオン / フランス海外県

カブリ・マサレ

Cabri massalé

薪の火で3時間、島の祝いごとの真ん中

RÉUNION02
日曜の朝、まず火をおこす。

レユニオンの週末は、火をおこすところから始まる。海辺や川べりのピクニック台に車を寄せ、炭と薪と大鍋(マルミット)を下ろす。まだ午前中なのに、あちこちから煙が上がっている。その日の主役はたいてい、カブリ・マサレだ。

カブリ(cabri)は山羊のこと。マサレ(massalé)は、コリアンダー、クミン、ターメリック、丁子などを合わせた混合香辛料で、語源はインドのマサラだ。1848年の奴隷制廃止のあと、南インドから契約労働者としてこの島に渡ってきた人たちが持ち込んだ配合が、いまも家ごとに少しずつ違う形で残っている。

同じ煮込みでも、カリとマサレははっきり別物として扱われる。カリはターメリックとタイムが中心で色は黄色。マサレは混合香辛料を加えるので香りが濃く、色は赤みが強い。山羊の脂には独特のくせがあり、それを受け止めるのに強い香辛料がちょうどいい。

作り方は単純だが、時間がかかる。骨つきのまま炒めて、香辛料を入れて、蓋をして煮る。それだけ。ただし山羊は硬いので、柔らかくなるまで2〜3時間。だから朝から火を焚く。鍋の前で人が入れ替わり立ち替わりかき混ぜて、その間ずっと喋っている。

食堂やフェルム・オーベルジュでも出てくるが、島の人にとってこれは「外で、大勢で」食べる料理だ。ガスコンロで作るより薪のほうがうまい、と言い切る人はいまも多い。

山羊肉+混合香辛料マサレ15〜24€(約2,600〜4,200円)祝いごとと日曜の大鍋
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鍋の中身

鍋いっぱいに煮えたカブリ・マサレのアップ
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薪の火にかけた蓋つきの大鍋と、オレンジ色のカブリ・マサレの鍋火にかけた2つの鍋

グランダンス(プティティル)で薪火にかけられた鍋の中のカブリ・マサレ(2026年公開)

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山羊肉cabri骨つきのぶつ切りのまま入れる。長く煮ると骨から外れるようになる
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マサレの煮汁sauce massaléカリより色が濃く赤い。コリアンダーとクミンの香りが立つ
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鍋肌の煮詰まり薪火は火力が動くので、鍋肌に汁が焼きついていく。これがうま味になる
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大きなマルミットmarmite直径50cm級のアルミ鍋。人数が読めない集まりでは、とにかく大きいものを使う
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一口目

味

香辛料が先、山羊の脂があと

最初に来るのはマサレの香り。そのうしろから山羊の脂の甘みとくせが出てくる。塩気はしっかりめで、白飯と豆と一緒に食べてちょうどいい設計になっている。

食感

骨からほろりと外れる

2〜3時間煮るので、繊維がほどけて骨から外れる。硬い部位ほど時間をかけると柔らかくなる。煮汁は少なく、とろりと肉にからむ。

香り

クミンと丁子

蓋を開けた瞬間の匂いが強い。マサレの配合は家ごとに違うので、同じ料理でも家ごとに匂いが違う。薪で炊いたものは、そこに煙の香りが乗る。

屋外にしゃがんで大鍋の料理を取り分けるサリー姿の女性たち
屋外で大鍋から取り分ける。インド系の家庭の集まり(2023年)
草地に座る白いヤギ
高地の草地のヤギ。祝いの前になると精肉店は予約で埋まる(2026年)
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作り方

鮮やかな黄色のキュルキュマ(ターメリック)の粉の山1
マサレを用意する

コリアンダー、クミン、ターメリック、丁子などを合わせた混合香辛料。既製品も売っているが、配合を自分の家のものにしている人も多い。ターメリックは市場で粉の山から量り売りされている。

カリとの違いは、この混合香辛料を使うかどうか
市場に並ぶ香辛料用の葉と青い実2
香辛料をそろえる

市場の香辛料売り場には、粉になる前の葉と実のまま並んでいる。生姜、にんにく、唐辛子も一緒に買う。

辛味は鍋に入れず、卓上のルガイユで足す家が多い
3山羊を炒める

骨つきのぶつ切りを油で炒め、玉ねぎ・にんにく・生姜を加える。そこへマサレを入れて、香りが立つまで炒め合わせる。

炒めが甘いと香辛料が粉っぽく残る
薪の煙の上がる鍋から湯気を立てる煮込みと白飯の皿4
蓋をして2〜3時間

トマトを加えて蓋をし、弱火で長く煮る。薪火なら火の距離で加減する。途中で何度も蓋を開けてかき混ぜるので、そのたびに匂いが広がる。

人が集まる料理なので、鍋番は交代しながら
5白飯と豆を添える

白米と豆(レンズ豆や赤インゲン)を添えて出す。骨つきの部分は手で持って食べる人も多い。

ルガイユと一緒に。辛さは各自で足す
山羊肉(骨つき)マサレ(混合香辛料)玉ねぎにんにく生姜トマトターメリック塩こしょう油
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この一皿の来歴

1848年

奴隷制廃止

労働力を確保するため、南インドから契約労働者が渡ってくる。この人たちが香辛料の配合を持ち込んだ。

19世紀後半

マサレが台所に入る

コリアンダー、クミン、丁子などを合わせた混合香辛料が、島の家庭料理の語彙になる。

20世紀

祝いごとの料理に

山羊は日常の肉ではなく、人が集まる日の肉。大鍋で炊く形が定着する。

現在

週末の海辺と川べり

ピクニック台に鍋を持ち込んで炊く光景は、いまも週末のあちこちで見られる。

現在

店でも出てくる

食堂やフェルム・オーベルジュの定番。薪火で炊く店もある。

レユニオンの料理を、カリとマサレのふたつに分けて考えると分かりやすい。どちらも肉を香味野菜と煮込む料理で、どちらも白飯と豆と一緒に食べる。違うのは、香辛料の入れ方だ。

カリは、ターメリックとタイムを軸にする。玉ねぎ、にんにく、生姜、トマトを炒めて、そこに肉を入れて蓋をして煮る。フランスの煮込みの手順に、島で採れるターメリックが乗った形だと言っていい。色は黄色く、香りは穏やかだ。

マサレは、そこに混合香辛料が加わる。コリアンダー、クミン、丁子、シナモン。配合そのものが料理の性格を決めるという考え方は、インド料理の側から来ている。1848年の奴隷制廃止のあとに南インドから渡ってきた契約労働者が、この考え方を持ち込んだ。

面白いのは、その香辛料が「山羊」という素材と結びついたことだ。山羊の脂には独特のくせがあって、穏やかなカリの味付けだと持て余す。強い香辛料はそのくせを消すのではなく、拮抗させる。だから島では、鶏や牛はカリ、山羊はマサレ、という組み合わせが自然に定着した。

そしてもうひとつ。この料理は「大鍋で」「長時間」「外で」作られる。ひとりぶんを手早く作る料理ではない。人が集まる日に、朝から火を焚いて、交代で鍋を見て、昼過ぎにようやく食べる。料理そのものより、その時間のほうが本体なのかもしれない。

大きな鍋にカリと白飯を並べたレユニオンの食卓
大鍋と白飯。取り分ける前の食卓(2010年撮影)
白飯、赤インゲン豆、鶏のカリ、ルガイユを盛りつけた一皿
白飯・豆・煮込み・ルガイユ。島の一皿の完成形(2023年)

マサレの配合、カリとの区別は、島でよく語られている整理をもとに書いている。家庭や店によって配合も呼び方も幅がある。

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この一皿の余話

ことばの話

マサレは、1848年のあとに海を渡ってきた

1848年の奴隷制廃止で労働力が足りなくなった島は、南インドから契約労働者を受け入れた。その人たちが持ち込んだ混合香辛料が massalé(マサレ)で、語源はインドのマサラだ。配合はコリアンダー、クミン、ターメリック、丁子などが基本だが、確定した処方はない。家ごとに違い、店ごとに違う。「うちのマサレ」という言い方が成り立つのは、そのためだ。

名前のいたずら

「マサレ・ラ・コレ」は韓国と関係がない

メニューに massalé la corée と書いてあることがある。字面は「韓国のマサレ」だが、韓国料理ではない。モツを香辛料で煮込んだ料理で、名前の由来については島でもいろいろな説明がされている。知らずに頼むと、想像とまったく違うものが出てくる。同じように massalé / massalé cabri / cabri massalé と語順が揺れるが、これらは同じものを指している。

日曜の風景

鍋番は、交代でやるものらしい

山羊は硬い。柔らかくなるまで2〜3時間かかる。だから朝から火を焚き、その間ずっと誰かが鍋のそばにいる。海辺や川べりのピクニック台に炭と薪と大鍋を下ろして、人が入れ替わりながらかき混ぜて、その間ずっと喋っている。料理というより、集まりのかたちに近い。「カブリ・マサレを作る」と言ったら、それは一日を空けるという意味になる。

短い話

  • 1
    カリとの違いは香辛料ひとつターメリックとタイム中心なら黄色いカリ。そこにマサレを足すと、色が赤みがかって香りが濃くなる。同じ鶏でも「カリ・プレ」と「マサレ・プレ」は別料理として扱われる。
  • 2
    「カブリ・ペイ」は島の山羊péi(ペイ)は「この土地の」という意味の言い方。輸入の冷凍肉と区別するときに使う。祝いの前になると精肉店は予約で埋まる。
  • 3
    辛くはないマサレは香りの混合であって、辛味ではない。辛さが欲しければ卓上のルガイユで足す。
  • 4
    薪派とガス派薪火のほうがうまいという意見は根強い。フェルム・オーベルジュで薪を売りにしている店があるのはそのためで、仕込みに時間がかかるので予約が要ることがある。
  • 5
    骨は手で持ってよい長く煮ると肉が骨から外れる。行儀の問題にはならない。
  • 6
    白飯・豆・ルガイユは必ずついてくる煮込みだけで出てくることはまずない。皿の上の構成は、カリのときとまったく同じ。
トタン壁の台所で、薪の炎の上に並んだ3つの鍋
トタン壁の台所、薪の炎の上に並んだ3つの鍋。人が集まる日の朝はこうなる(2007年撮影)
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食べに行く前に

注文のことば

Un cabri massalé, s'il vous plaît.アン・カブリ・マサレ、シル・ヴ・プレ/カブリ・マサレを1つください
C'est du cabri péi ?セ・デュ・カブリ・ペイ?/これは島の山羊ですか?
Pour deux personnes.プール・ドゥ・ペルソンヌ/2人前で
Il faut réserver ?イル・フォ・レゼルヴェ?/予約が要りますか?
C'est cuit au feu de bois ?セ・キュイ・オ・フー・ド・ボワ?/薪で炊いていますか?

人が集まる日の料理なので、週末に出す店が多い。薪火で炊く店は仕込みに時間がかかるため、予約が要ることがある。

値段と覚え書き

食堂・持ち帰り店15〜22€約2,600〜3,900円
フェルム・オーベルジュ(薪火)18〜28€約3,100〜4,900円
山羊肉(精肉店・1kg)20〜25€約3,500〜4,400円
  • メニューでは massalé / massalé cabri / cabri massalé と書き方が揺れる。どれも同じ
  • カリより色が濃く、香りが強い。辛さは入っていないので、辛味は卓上のルガイユで足す
  • 山羊は硬いので長時間煮る。予約制の店があるのはそのため
  • 「massalé la corée」という料理はモツを香辛料で煮込んだもので、韓国とは関係がない
  • 週末の海辺のピクニック台では、家族が持ち込みの鍋で炊いている光景が普通に見られる
  • 骨つきの部分は手で持って食べてかまわない

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(11枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。

  • グランダンスの海辺で、薪の火にかけた大鍋がいくつも並ぶ野外調理|VillageHero from Ulm, Germany/CC BY-SA 2.0/2016年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 鍋いっぱいに煮えたカブリ・マサレのアップ|Clémenceau Lauret/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 薪の火にかけた蓋つきの大鍋と、オレンジ色のカブリ・マサレの鍋|Clémenceau Lauret/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 屋外にしゃがんで大鍋の料理を取り分けるサリー姿の女性たち|Tchaosy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 草地に座る白いヤギ|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 鮮やかな黄色のキュルキュマ(ターメリック)の粉の山|Guilleron/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 市場に並ぶ香辛料用の葉と青い実|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 薪の煙の上がる鍋から湯気を立てる煮込みと白飯の皿|Tchaosy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 大きな鍋にカリと白飯を並べたレユニオンの食卓|Bbb/CC BY-SA 3.0/2010年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白飯、赤インゲン豆、鶏のカリ、ルガイユを盛りつけた一皿|Tchaosy / Sung-Yee TCHAO/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • トタン壁の台所で、薪の炎の上に並んだ3つの鍋|Deborahbataille/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)