世界の料理図鑑 台湾
四季春茶
四季春茶 スージーチュンチャー Four Seasons Spring Oolong
蘭のような香りと、透明感のある味。食後に頼むならこれ。1杯NT$35。
台湾の茶飲料スタンドで、タピオカミルクティーの隣に必ず並んでいる名前です。値段は半分。それでいて、これがいちばん台湾らしい味かもしれません。
九份の茶楼で座って飲む台湾茶も、たいていこの系統から始まります。
そしてこの茶が安い理由は、品質ではなく植物としての性質にあります。
- 国・地域
- 台湾。原産は台北近郊の木柵。現在は南投など各地で栽培
- 分類
- 青茶(半発酵の烏龍茶)
- 相場
- スタンドで1杯NT$35前後(約165円)。茶楼の茶席は1人NT$300〜500
- 主な材料
- 四季春という品種の茶葉のみ
- 発酵度
- 15〜25%程度。烏龍茶のなかでは軽いほう
- 香り
- 蘭に例えられる複合的な花の香り
- 飲む場所
- 茶飲料スタンド/茶楼/茶葉専門店
- ベスト時間
- 食後。脂の多いものを食べた直後に効く
- 一人前
- スタンドなら700ml。茶楼なら茶葉を替えながら2時間ほど
- 土産
- 100gでNT$300〜800。真空パックにしてくれる
01一口目に来るもの
まず香りが来ます。湯呑みを口に近づけた時点で、もう味わいが始まっている。
よく「蘭の花のよう」と表現されますが、実際に飲むと単一の花の香りではありません。何種類かの花が重なったような、輪郭のぼやけた甘い香り。台湾の茶業関係者はこれをブーケに例えます。
口に含むと、意外なほど軽い。渋みがほとんどなく、透明感がある。烏龍茶と聞いて想像する濃さや重さがない。
飲み込んだあと、口の奥に甘さが残ります。回甘(ホイガン)と呼ばれる、台湾茶の評価軸のひとつです。

02味と香り
四季春は品種の名前です。茶の種類ではなく、茶樹の品種。台北近郊・木柵の茶農家が、鉄観音種の自然交配のなかから見つけたと伝えられます。
発酵度は低め(およそ15〜25%)。だから緑茶に近い爽やかさと、烏龍茶の花香が同居する。台湾茶のなかでも最も入門向きとされる理由がここにあります。
渋み・苦みがほとんど出ないので、淹れ方の失敗に強い。熱湯を注いで放置しても飲めてしまう。だからこそ茶飲料スタンドのベースとして大量に使われています。
冷やしても香りが落ちにくいのも特徴。台湾で「無糖の冷たいお茶」を頼むと、かなりの確率でこれが出てきます。


なぜ「四季春」というのか
名前の由来は収穫できる季節の広さにあります。
ふつうの茶樹は冬に休眠します。ところがこの品種は寒さに強く、休眠がほとんどない。晩冬や早春でも摘める。一年を通して収穫でき、年に6〜8回摘めることもある。
つまり「一年じゅう春のように摘める茶」。生産性がきわめて高いため価格が安く抑えられ、それが茶飲料スタンドで1杯NT$35という値段を成立させています。
安いから質が低いのかというと、そうではない。安さの理由が病気に強く収量が多いことにある——これが四季春の面白いところです。


第 二 章
一年じゅう春のように摘める茶
台湾の茶畑。標高と霧の量が香りを決める
03産地と茶畑
四季春の原産は台北近郊の木柵(ムーザー)。現在の主産地は南投県の名間郷などで、平地に近い低標高の茶畑で大量に栽培されています。
台湾茶は一般に標高が高いほど高級とされます。高山茶と呼ばれる阿里山・梨山・杉林渓は標高1000mを超え、香りが強く値段も跳ね上がる。
四季春はその対極にあります。低標高で、収量が多く、安い。それでも香りは十分に立つ。台湾の日常を支えている茶という位置づけです。
台北から近い茶畑としては猫空(マオコン)があります。ロープウェイで上がれて、茶楼が点在している。四季春の原産地・木柵はこの一帯です。


安いのは、質が低いからではない。休まない木だからだ。四季春という品種
04飲み方の作法
スタンドで買う場合は、無糖(ウータン)を指定します。何も言わないと砂糖が入ります。
茶楼で飲む場合は作法があります。店員が炭火の湯沸かしと茶器一式を持ってきて、最初の一杯だけ淹れ方を教えてくれる。あとは自分で。
急須に茶葉を入れ、湯を注いで20秒ほど。小さな杯に注ぐ。二煎目は少し長め、三煎目はさらに長めに。香りは二煎目がいちばん立つとされます。
一煎目を捨てる(洗茶)かどうかは店や人によります。四季春のような軽い茶では捨てないことも多い。
茶請けは梅や落花生、ひまわりの種。九份の茶楼では茶葉代+席料で2時間ほど粘れます。
05注文のしかた
スタンドでは「四季春、無糖、少冰(スージーチュン、ウータン、シャオビン)」。
メニューには四季春茶のほか、青茶や翠玉、金萱(ジンシュエン)といった品種名が並びます。金萱はミルクのような香りがする品種で、こちらも人気。
茶楼で座って飲むなら「一位、喝茶(イーウェイ、ハーチャー)」=1人、お茶を。あとはメニューの茶葉名を指させば通じます。
茶葉は土産に最適です。100gでNT$300〜800ほど。真空パックにしてくれるので持ち帰りやすく、荷物にもならない。
06どこで飲む
いちばん安いのは街角の茶飲料スタンド。1杯NT$35で、これが本物の台湾茶です。
座って味わうなら九份の豎崎路の茶楼。木造3階建ての建物が斜面に張りつき、窓から基隆湾が見下ろせる。日没の時間に窓際の席が取れると、赤提灯に灯が入る瞬間を茶を飲みながら見られます。
台北なら猫空(マオコン)。ロープウェイで上がる茶畑の山で、茶楼が点在しています。
茶葉を買うなら迪化街や永康街の茶葉専門店。試飲させてくれる店がほとんどなので、飲んでから選べます。



07歴史と背景
台湾の茶づくりは19世紀に本格化します。福建から茶樹と製茶技術が持ち込まれ、北部の丘陵地で栽培が始まりました。
日本統治時代には輸出産業として大きく育ちます。烏龍茶と紅茶が欧米へ送られ、台湾は世界の茶市場のなかで名を知られるようになった。
四季春が世に出たのはずっと後、20世紀後半です。木柵の茶農家が鉄観音種の自然交配のなかから、寒さに強く休眠しない個体を見つけた。それが増やされ、いまや台湾でもっとも大量に飲まれる茶になりました。
つまり四季春は、台湾の茶が輸出品から日常品へ変わった時代の産物です。高山茶が贈答品として語られる一方で、この茶は毎日の1杯として選ばれている。


08似ている料理
金萱茶(ジンシュエン)は、ミルクのような甘い香りを持つ台湾の品種。四季春より丸みがあり、こちらも入門向き。
凍頂烏龍茶は南投・鹿谷の名茶。発酵度が高めで、香ばしさとコクがある。四季春の軽さとは対照的です。
東方美人茶はウンカに噛ませた葉から作る特殊な茶で、蜜のような香り。値段は桁が変わります。
中国大陸の鉄観音は四季春の親にあたる品種。飲み比べると、香りの方向は似ていて、四季春のほうが軽いことがわかります。
09豆知識
・四季春は品種名がそのまま商品名になっている珍しい茶です。産地名で呼ばれることが多い台湾茶のなかでは例外的。
・球形に揉まれているのは、香りを閉じ込めて輸送しやすくするため。湯を注いでから開ききるまでに3煎ほどかかるので、一煎目より二・三煎目のほうが濃く出ます。
・茶葉は冷凍庫で保存すると香りが長持ちします。台湾の茶商もそう勧めます。
・茶楼では茶葉を追加できます。「加茶葉(ジャーチャーイエ)」。追加料金がかかる店とかからない店があります。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/04.22 總統參訪吳濁流故居並品茗 (34152541916).jpg / 總統府 / CC BY 2.0
- 02/Jacksons of Piccadilly Formosa Oolong Tea (51878727206).jpg / Joost J. Bakker IJmuiden / CC BY 2.0
- 03/Oolong tea leaves – character for tea in Chinese.jpg / Toby Oxborrow from Kowloon, Hong Kong / CC BY-SA 2.0
- 04/Oolong tea leaf.jpg / Suguri F (すぐり) / CC BY-SA 3.0
- 05/Jin Xuan oolong tea.jpg / Difference engine / CC BY-SA 4.0
- 06/Lychee Oolong Tea Drink, Oct 2024.jpg / Ralff Nestor Nacor / CC BY-SA 4.0
- 07/台灣台東縣鹿野鄉 – panoramio (5).jpg / 徐月春 / CC BY 3.0
- 08/2010-02-14 Maokong Tea Plantations.jpg / eazytraveler / CC BY 2.0
- 09/Tea plantation in Taiwan around 1933.jpg / 台湾総督府(Office of the Governor-General of Taiwan) / Public domain
- 10/內柵國民小學古物-060B 0199.jpg / 林高志 / CC BY-SA 4.0
- 11/Taiwan New Cultural Movement Memorial Hall (Formosa Oolong Tea).jpg / Battlesnake1 / CC0
- 12/Kaisi Oolong Tea ad on Zhongshan North Road 20150811.jpg / Solomon203 / CC BY-SA 4.0
- 13/The Formosan Oolong Tea.jpg / Unknown author Unknown author / Public domain
- 14/2009-03-21 Shilin Night Market 01.jpg / Banzai Hiroaki / CC BY 2.0
価格は2026年8月時点の現地相場の目安です。/参考:四季春は台北近郊・木柵で鉄観音種の自然交配から見出された品種とされる。







