世界の料理図鑑 エジプト
ターメイヤ
طعمية ターメイヤ Ta’ameya
ひよこ豆で作ったなら、それはファラフェルであってターメイヤではない。
エジプト式のファラフェルです。決定的に違うのはそら豆で作ること。そして平たい円盤型であること。
割ると中が鮮やかな緑。パセリとコリアンダーの葉を大量に練り込むためです。ひよこ豆版のベージュ色とは、見た目からして別物です。
外は衝撃的なカリカリ、中はふわっと軽く、しっとり。ひよこ豆ファラフェルの「ぼそっ・ざらっ」とした密度とは対照的で、エアリーで湿り気があります。
- 国・地域
- エジプト全土
- 分類
- 揚げもの(豆)
- 相場
- サンドイッチ9〜10エジプトポンド(約29〜32円)
- 主な材料
- 乾燥そら豆(皮むきの割りそら豆)、パセリ、コリアンダーの葉、ディル、玉ねぎ、ニンニク、クミン、コリアンダーシード、重曹、ゴマ
- 辛さ
- 辛くない
- 食べる場所
- 朝の屋台、大衆朝食チェーン
- ベスト時間
- 朝。昼夜には基本食べない
- 一人前の目安
- サンドイッチ1〜2個
- 食べ方
- エーシュ・バラディに潰して押し込み、タヒニ・ソースとピクルスと一緒に
- 近い料理
- ファラフェル(レバント版、ひよこ豆・球形)
01一口目に来るもの
ひと口目は衝撃的なカリカリです。外側は薄く硬く、ゴマがついていれば香ばしい弾け方をする。
割ると中は鮮やかな緑。初めて見ると驚きます。パセリとコリアンダーの葉を大量に練り込むためで、この緑がターメイヤの証明です。
中の食感はふわっと軽く、しっとり。ひよこ豆で作るレバント式ファラフェルの「ぼそっ」とした密度とはまったく違います。
味は青いハーブの香りが主役で、クミンとコリアンダーシードが後ろから支える。豆の味は驚くほど前に出ません。
エジプトのターメイヤは、実質「ハーブ料理」です。豆はつなぎに近い。

02豆を茹でてはいけない
ターメイヤ最大の失敗は茹でた豆を使うことです。油の中で分解します。
豆は加熱せず、生のまま一晩水戻しして挽く。これが絶対条件。
挽いた生地は水を一切足さない。水分が多いと崩れます。寝かせてから成形し、円盤状に整えて中温の油で揚げる。エジプト式は球ではなく平たい円盤が標準です。
重曹を入れないと膨らまず密度が出過ぎる。油の温度が低いと油を吸ってべたつく。挽いてから時間を置きすぎると変色します。
専用のファラフェル・プレスという道具があり、これで一気に成形します。


ひよこ豆版が「派生」だった
順序を間違えている説明をよく見かけます。そら豆版が元祖で、ひよこ豆版が派生です。
歴史家アレクサンダー・リーによれば、ファラフェルがエジプトの文献に現れるのは1882年の英国占領以降。比較的新しい料理です。
エジプトではひよこ豆よりそら豆が圧倒的に安価で豊富だったため、そら豆で作られました。「falafel」という語自体が فول(フール=そら豆)に由来する可能性も指摘されています。
レバント地方へはWW1後に伝播し、そこでひよこ豆に置き換わった。エジプト人が「ひよこ豆ならそれはファラフェルであってターメイヤではない」と主張する根拠がここにあります。
第 二 章
朝 の 油 鍋
ターメイヤは昼にも夜にも出てこない
03「コプト起源説」は否定されている
世界中の料理本に載っている説があります。「コプト教徒が四旬節(レント)の肉断ちのために古代〜中世に発明した」。
これは根拠がありません。歴史家アレクサンダー・リーは「これを支持する証拠は一片も存在しない。そもそも falafel はコプト語ではない」と明確に否定しています。
有力な説として、英国将校がインドで見た揚げ野菜料理(パコラ等)をエジプト人料理人に再現させたことが契機になった可能性が指摘されています。
もっともらしい俗説がどう広まるかの、典型的な例として面白い。



ひよこ豆で作ったなら、それはファラフェルであってターメイヤではない。エジプト人にとっては好みの問題ではなく、アイデンティティの問題
04種類を並べてみる
エジプト式とレバント式の違いも並べておきます。

05いくらで食べられるか
エジプトで最も安い朝食のひとつです。原料のそら豆粉は2015年の4〜5エジプトポンド/kgから55ポンド/kgへ(約1400パーセント上昇)していますが、それでも安い。
06どこで食べるか
カイロ:フェルフェラ(ダウンタウン)。エル・タベイ・エル・ドミアティ系列(ダウンタウン・ドッキ等)は大衆朝食チェーンです。ズーバ(ザマレク)はモダン解釈のターメイヤサンド。
アレクサンドリア:モハメド・アハメド(Shakour St)。ターメイヤの評価が特に高い店です。
ルクソール:ソフラ。旧市街のスーク周辺の朝の屋台も。
頼み方は「サンドウィッチ・ターメイヤ」。「サンドウィッチ・メシャッキル」でフールとのミックスになります。「ビッ・トルシー」でピクルス入り。
朝食メニューなので、昼夜には基本食べません(近年のカフェは例外)。


07豆知識
中が緑色なのはハーブの量が異常に多いから。豆料理というより、ハーブ料理です。豆はつなぎに近い。
キリスト教徒の断食期にも、ムスリムのラマダンにも重宝される。宗教横断的な精進食です。コシャリと同じく、エジプトの食卓は宗教を越えている。
「コプト起源説」は歴史家に明確に否定されている。もっともらしい俗説が世界中の料理本に載っている、という現象そのものが面白い。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Falafel small.jpg / Elias Bröms, http://www.meatinfo.org / CC BY-SA 3.0
- 02/Uncooked Falafel and Falafel Press.jpg / Nsaum75 / CC BY-SA 3.0
- 03/Falafel before frying.JPG / Miansari66 / CC0
- 04/Preparing falafel 1709.JPG / Hynek Moravec / CC BY-SA 3.0
- 05/Falafelفلافل.jpg / Aziz1005 / Public domain
- 06/Falafel – Spain.JPG / Tamorlan / CC BY-SA 3.0
- 07/Falafel 3.JPG / Dr. Bernd Gross / CC BY-SA 3.0
- 08/Falafel mixture.JPG / Miansari66 / CC0
- 09/Фалафел.jpg / Cuklev / CC BY-SA 4.0
- 10/Crispy Falafel.jpg / Alper Çuğun / CC BY 2.0






