
ロム・アランジェ
Rhum arrangé
果物と香辛料を漬け込んだ、家ごとの一本
レユニオンの食堂や宿に入ると、棚やカウンターに大きなガラス瓶が並んでいるのが目に入る。中には果物や香辛料が沈んでいて、液体の色が瓶ごとに違う。赤いもの、琥珀色のもの、白く濁ったもの。これがロム・アランジェ(rhum arrangé)だ。
作り方は単純で、ラム酒に果物や香辛料、ときに砂糖を入れて漬け込むだけ。「arrangé」は「手を加えた」という意味で、島の公式観光情報でも「植物や果物をアルコールに漬け込んだ巧みな混合」と説明されている。カクテルというより、家で仕込む果実酒に近い。
レユニオンは18世紀からサトウキビの島で、製糖の副産物である糖蜜からラムが作られてきた。安く手に入るラムに、その季節に採れるものを入れて置いておく。それが積み重なって、家ごと店ごとの配合になった。
定番はバニラ、ライチ、パッションフルーツ、生姜、シナモン、コンバヴァ、コーヒー豆、ファハム(faham)という島のランの葉など。ココナツやカフェ・ヴァニーユは白く濁るので、見ただけでどれか分かる。
食後に小さなグラスで少しだけ出てくるのが普通の飲み方だ。度数はもとのラム次第で、40度前後のものも多い。島の公式情報も、節度ある飲み方を添えて紹介している。
瓶の中を見る

グラスに注いだところ宿の棚にずらりと並んだロム・アランジェの大瓶(2014年撮影)
一口目
味
甘さのうしろにアルコール
口に入れた瞬間は果物と砂糖の甘さが来て、そのあとにラムのアルコール感が立ち上がる。甘いので飲みやすく感じるが、度数はもとのラムのままであることが多い。
香り
瓶ごとにまったく違う
バニラのものは甘く重い香り、ライチやパッションは軽く華やか、生姜やコンバヴァは鼻に抜ける。同じ店でも瓶を変えると別の飲みものになる。
出し方
小さなグラスで少しだけ
食後にショットグラスほどの器で少量出てくるのが一般的。何種類か少しずつ試させてくれる店もある。ボトルで買うと土産になる。


仕込み方
1島の産業の中心はサトウキビで、製糖の副産物である糖蜜からラムが作られる。収穫期にはこうしたトレーラーが道路を行き来する。
収穫期はおおむね7〜12月
2ライチ(letchi)は12月前後、パッションフルーツやマンゴーもそれぞれの季節がある。その時期に採れたものを入れるのが基本。
季節ごとに違う瓶が仕込まれていく
3バニラ、シナモン、生姜、コンバヴァ(こぶみかんの一種)、コーヒー豆など。1種類だけの瓶も、何種類か合わせる瓶もある。
コンバヴァは皮の香りを使う果物と香辛料をラムに沈め、好みで砂糖やシロップを加えて蓋をする。あとは棚に置いておくだけ。数週間で飲めるが、数か月から年単位で置く瓶もある。
時間が経つほど色が濃くなる食後に少量を注いで出す。瓶の中身は継ぎ足しながら使う家もある。
度数は高い。少量でこの一杯の来歴
サトウキビの島になる
製糖業が島の中心産業になり、副産物の糖蜜からラムが作られるようになる。
家庭の漬け込み酒として
安く手に入るラムに、季節の果物や香辛料を漬け込む習慣が広がる。家ごとに配合が違う状態が定着する。
店の顔になる
食堂や宿がカウンターに何種類も並べて出すようになり、店ごとの個性を示すものになる。
土産物としても
土産物店や空港でも瓶詰めが売られ、島の代表的な持ち帰り品のひとつになっている。
公式情報でも紹介
島の公式観光情報でも「植物や果物を漬け込んだ巧みな混合」として紹介され、あわせて節度ある飲み方が添えられている。
ロム・アランジェの面白さは、レシピが公開されていないことにある。というより、公開するようなレシピがない。台所にあるものと、その季節に採れたものを入れて置いておく。それだけなので、家の数だけ味がある。店に並ぶ瓶の数は、その店が何を試してきたかの記録でもある。
材料を並べていくと、島の歴史がそのまま出てくる。ラムはサトウキビとフランスの製糖業から、バニラは19世紀の栽培から、コンバヴァや生姜はアジアからの移民が持ち込んだ植物から、ライチやパッションフルーツは島の気候から来ている。1本の瓶の中に、来歴の違うものが一緒に入っている。
ファハム(faham)という材料は、島に自生するランの葉を乾かしたもので、外ではあまり見かけない。甘い干し草のような香りがして、ロム・アランジェのほか、湯を注いでお茶にもされる。土産物としても売られている。
飲み方は食後に小さなグラスで少しだけ、というのが一般的な形だ。甘いので口当たりがよく、度数の高さを感じにくい。もとのラムが40度前後であることは変わらないので、量には注意したほうがいい。フランスでは酒類の購入・提供は18歳以上と定められている。
土産にするなら、瓶詰めのものを買うのがいちばん確実だ。中身が入ったまま持ち帰ることになるので、割れ物として梱包し、航空機に持ち込む場合は液体物とアルコール度数の規定を確認しておくとよい。


材料や漬け込み期間は家庭・店によって大きく異なる。ここに書いたのは島でよく使われている材料と、一般的な扱い方の整理。アルコール度数や成分は製品ごとに違う。
この一杯の余話
ファハムは、この島にしかないランの葉
ロム・アランジェの材料としてよく名前が出るファハム(faham)は、Jumellea fragrans というマスカレン諸島の固有種のラン。香りの主成分はクマリンで、甘い干し草のような匂いがする。風邪をひいたときにお茶にする使い方も伝統的に知られている。ただし野生のランなのでワシントン条約(CITES)の附属書IIに載っていて、島の外へ持ち出すには建前として輸出許可が要る。近年は野生株の減少が問題になっている。買うときは、栽培品かどうかを店に聞くのが無難だ。
「シャレット」は、絵に描かれた荷車の名前
島でいちばん見かけるラムの銘柄シャレット(Charrette)の名前は、ラベルの絵から来ている。牛が引くサトウキビの荷車と、それを引く人。1972年に島の生産者が団体を作って自分たちで瓶詰めと販売ができるようになり、1976年にウジェーヌ・ゴンチエがこのラベルを描いた。つまり「シャレット」は昔からの伝統的な名前ではなく、50年ほど前に生まれた名前だ。それがいまでは島の風景の一部になっている。
レシピがないから、家の数だけ味がある
ロム・アランジェには公開できるようなレシピがない。台所にあるものと、その季節に採れたものを入れて、棚に置いておく。それだけだ。だから店に並ぶ瓶の数は、その店が何を試してきたかの記録になっている。材料を並べると島の歴史がそのまま出てくるのも面白い。ラムはサトウキビとフランスの製糖業から、バニラは19世紀の栽培から、コンバヴァや生姜はアジアからの移民が持ち込んだ植物から、ライチやパッションフルーツは島の気候から来ている。
短い話
- 1白く濁っている瓶の正体ココナツ系か、カフェ・ヴァニーユ。棚に並んでいると、これだけ色でひと目でわかる。
- 2甘いが、度数は落ちない漬け込んでも元のラムの度数はそのまま。40度前後のものも多い。小さなグラスで少量が基本。
- 3フランスでは18歳から酒類の購入・提供は18歳以上。運転する日は飲まない。レンタカーで島を回る行程では特に。
- 4ファハムはお茶にもなる乾かした葉に湯を注ぐ。土産物店で小袋入りが売られている。
- 5持ち帰りは瓶詰めで割れ物として梱包し、航空機に持ち込む場合は液体とアルコール度数の規定を確認しておく。
- 6ティザヌール(薬草売り)の店を見る価値あり市場の一角に、乾燥ハーブに手書きの札を添えて並べる店がある。漬け込みの材料はここで買える。

食べに行く前に
注文のことば
食堂や宿のカウンターに並んでいることが多く、食後に頼むと少量出してくれる。何種類か試させてくれる店もある。土産にするなら瓶詰めのものを。
値段と覚え書き
| グラス1杯(食堂・バー) | 3〜6€約500〜1,100円 |
| 瓶1本(土産物店) | 18〜35€約3,100〜6,100円 |
| ファハム(乾燥葉・小袋) | 4〜8€約700〜1,400円 |
- 甘くて飲みやすいが、度数はもとのラムのまま。40度前後のものも多い
- フランスでは酒類の購入・提供は18歳以上
- 白く濁っている瓶はココナツ系かカフェ・ヴァニーユのことが多い
- ファハムは島に自生するランの葉。湯を注いでお茶にもされる
- 土産に持ち帰る場合は、割れ物梱包と、航空機の液体・アルコール度数の規定を確認
- 運転する日は飲まない。レンタカーで島を回る行程では特に
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Île de la Réunion Tourisme「Gastronomie」 「植物や果物をアルコールに漬け込んだ巧みな混合」という説明、節度ある飲酒の注記
- Île de la Réunion Tourisme「Recettes créoles réunionnaises」 島の食文化におけるラムと食後酒の位置づけ
写真の出典(11枚)
写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 薪のかまどの前に置かれた、果実を漬け込んだシャレット・ラムの大瓶と小瓶|Marie-angele.joly/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- ホテルの棚にずらりと並んだロム・アランジェの大瓶|Voyages etc… / Adeline Gressin/CC BY 2.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 「Rhum Charrette La Réunion」のロゴ入りグラスに注がれた琥珀色のラム|Parchaco/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 棚に並んだ果物やスパイスを漬け込んだロム・アランジェの瓶|Nop112233/CC BY-SA 4.0/2015年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 市場の台に並ぶ、サトウキビや果実を詰めた漬け込み用のラム瓶|Annerun974/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 収穫したサトウキビを積んだ色鮮やかなトレーラーの列|SIBONX/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 木の枝に実った赤いルチ(ライチ)|B.navez/CC BY-SA 3.0 migrated/2006年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 皮のごつごつした緑のコンバヴァが積まれた売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 製糖工場でクレーンがサトウキビをつかみ上げ、トラックに積み込む|Tchaosy / Sung-Yee TCHAO/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 黄色い商店の壁に掲げられた「BOURBON LA BIÈRE RÉUNIONNAISE」の看板|Marie-angele.joly/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 薬草の名前を書いた札を添えて乾燥ハーブを並べたティザヌールの露店|Nanie 974/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)


