
シュシュ
Chouchou
実も、葉も、根も、蔓まで使う「野菜の豚」
島の北東、サラジー圏谷に入ると、道路の上まで棚が張り出していて、そこから薄緑色の実がぶら下がっている。シュシュ(chouchou)。日本ではハヤトウリ、フランス本土ではクリストフィーヌと呼ばれる、ウリ科のつる植物の実だ。
この島のシュシュは、ほぼサラジー産と言っていい。地元の観光局によれば、島の生産の90%以上がこの圏谷から出ている。標高と湿度と雨が、この植物にちょうど合っている。
シュシュのすごさは、捨てるところがないことだ。実は煮ても炒めてもグラタンにもなる。若い芽と葉は「ブレッド・シュシュ」として炒め物になる。根は「パタト・シュシュ」と呼ばれて菓子の材料になる。そして乾かした蔓は裂いて洗って干すと、銀白色の絹のような繊維になり、帽子やかごに編まれる。
そのため地元では「コション・ヴェジェタル(cochon végétal/野菜の豚)」と呼ばれている。豚も鳴き声以外は全部使う、という言い方があるが、それと同じ扱いをされているわけだ。
料理としていちばん多いのはグラタン・ド・シュシュ。薄く切って茹で、ベシャメルとチーズをかけて焼く。ほかにサラダ、ドーブ(煮込み)、菓子、ジャム、酢漬けのアシャール。味そのものは淡いので、何にでも化ける。
実を見る

斜面いっぱいの蔓の畑市場の台に山と積まれたシュシュ(2016年撮影)
一口目
味
ほとんど味がない
これは欠点ではない。淡くて青くさくなく、噛むとほのかに甘い。だから何にでも合う。グラタンにすればチーズの味に、カリに入れれば煮汁の味に、ジャムにすれば砂糖とバニラの味になる。素材が主張しないことが役に立っている。
食感
しゃきしゃきと、とろりの中間
生に近い状態ではしゃきしゃき、火を通すと透き通ってとろりとする。煮くずれしにくく、水っぽくもならない。冬瓜と大根の中間くらいの感覚。
部位ごと
実・葉・根で別の食べもの
実は野菜として、若い芽と葉は炒め物のブレッドとして、根は「パタト・シュシュ」として菓子に。同じ植物なのに、皿の上ではまったく別のものとして扱われる。


使い方
1サラジーをはじめとする高地の斜面に棚を組み、蔓を這わせる。雨が多く、湿度が高く、涼しい場所を好む。島の生産の90%以上がサラジー産とされる。
20世紀のはじめ、島の経済危機のなかで新しい資源として栽培が始まった皮をむいて薄切りにする。アクは強くないが、切ると手にぬめりがつくことがある。気になるなら水にさらす。
種は1つだけ。柔らかいので一緒に食べられる
3茹でて水気をきり、ベシャメルとチーズをかけて焼く。グラタン・ド・シュシュ。高地の食堂の定番で、肉料理の付け合わせにもなる。
島でいちばんよく見るシュシュ料理サラダ、ドーブ(煮込み)、鶏やモリュのカリの具、菓子、ジャム、酢漬けのアシャール。若い芽はブレッドに、根は菓子に。
「捨てるところがない」と言われるゆえん
5乾かした蔓を縦に裂き、洗って干すと銀白色の絹のような繊維になる。これを編んで帽子やかごを作る。帽子1つに約10メートル分、20時間ほどの手間がかかるとされる。
サラジーの手工芸として続いているこの野菜の来歴
中央アメリカから
ウリ科のつる植物で、原産は中央アメリカ。大航海時代以降に世界の熱帯・亜熱帯へ広がった。
サラジーで栽培が始まる
島の経済危機のなか、新しい資源を求めた農家が栽培を始める。気候が合い、急速に広がった。
高地の主産業に
サラジー圏谷が島の生産の90%以上を占めるようになる。実だけでなく、蔓を編む手工芸も産業として育つ。
「野菜の豚」
実・若芽・根・蔓のすべてを使うことから、コション・ヴェジェタル(野菜の豚)と呼ばれる。
シュシュ祭り
サラジーのエルブール村で、農家と職人が集まる祭りが開かれている。
味のない野菜が、どうして島の代表格になったのか。答えは「味がないから」だと思う。シュシュ自体はほとんど主張しない。だからチーズをかければグラタンになり、煮汁に入れればカリになり、砂糖で煮ればジャムになる。何にでも化けられることが、この野菜の能力だ。
「コション・ヴェジェタル(野菜の豚)」という呼び名がよくできている。実は野菜として、若い芽はブレッドとして、根は菓子の材料として、乾いた蔓は編んで帽子やかごになる。一株から出てくるものが、台所と手工芸の両方に届く。使い切るという発想が、そのまま名前になっている。
蔓を編む工程の話が面白い。乾かした蔓を縦に裂き、洗って干すと、銀白色の絹のような繊維になる。帽子ひとつを編むのに、その繊維が約10メートル分、時間にして20時間ほどかかるとされる。市場や土産物店に並んでいる帽子は、野菜の蔓からできている。
サラジーは島の北東にある圏谷で、雨が多く、緑が濃い。エルブールという村があって、ここで毎年シュシュ祭りが開かれる。農産物と手工芸が同時に並ぶ祭りで、山あいの集落が一年でいちばんにぎわう日になる。開催時期は年によって変わるので、行くなら事前に確認したほうがいい。
旅行者にとっては、グラタン・ド・シュシュを一度食べておけば十分だ。付け合わせとして肉料理の横に添えられていることも多いので、意識していなくても口に入っている可能性が高い。「これは何ですか」と聞いたら、たぶんシュシュだ。


生産比率(90%以上がサラジー産)、蔓の加工に要する時間(帽子1つに約10m・20時間)は、島の観光局が示している数字。シュシュ祭りの開催時期・内容は年ごとに変わる。
この野菜の余話
「コション・ヴェジェタル」=野菜の豚
豚は鳴き声以外すべて使える、という言い方がある。シュシュはそれと同じ扱いを受けていて、地元では cochon végétal(野菜の豚)と呼ばれている。実は野菜として、若い芽と葉はブレッド(炒め物)として、根はパタト・シュシュとして菓子に、乾いた蔓は裂いて編んで帽子やかごに。ひとつの植物から、台所にも手仕事にも届くものが出てくる。捨てるところがないという評価が、そのままあだ名になった珍しい例だ。
帽子1つに、蔓10メートルと20時間
サラジーには、シュシュの蔓を編む手工芸が残っている。乾かした蔓を縦に裂き、洗って干すと、銀白色をした絹のような繊維になる。これを組んで帽子やかごにする。帽子ひとつを作るのに、編んだ繊維が約10メートル分、時間にして20時間ほどかかるとされる。市場や土産物店に並んでいる白い帽子は、野菜の蔓からできている。値段を見て高いと思ったら、この数字を思い出すといい。
日本ではハヤトウリ、フランス本土ではクリストフィーヌ
同じ植物なのに、行く先ごとに名前が変わる。レユニオンでは chouchou(シュシュ)、フランス本土やアンティル諸島では christophine(クリストフィーヌ)、中南米では chayote(チャヨテ)、日本では隼人瓜(ハヤトウリ)。日本に入ったのは大正時代で、鹿児島に最初に伝わったから「隼人」の名がついたと言われている。中央アメリカ原産の同じ実が、地球のあちこちで別々の名前をもらっている。
短い話
- 1味は淡いそれが長所。何にでも化ける。グラタン、カリ、サラダ、ジャム、アシャール。
- 2種は1つだけ中央に大きな種が1つ。柔らかいので一緒に食べられる。
- 390%以上がサラジー産島のシュシュはほぼこの圏谷から出ている。道の上まで棚が張り出している。
- 4ブレッド・シュシュ若い芽と葉を炒めたもの。皿の上では別の料理として扱われる。
- 5パタト・シュシュ根のこと。菓子の材料になる。市場で見かけたらこれ。
- 6帽子は土産になる蔓を編んだ帽子やかご。軽くてかさばらないので持ち帰りやすい。
食べに行く前に
注文のことば
サラジー圏谷(エルブール村など)へ行けば、棚から実が下がる風景がそのまま見られる。グラタン・ド・シュシュは高地の食堂の定番で、肉料理の付け合わせとしても出てくる。蔓を編んだ帽子やかごは土産物店や市場で。
値段と覚え書き
| 実(市場・1kg) | 1.5〜3€約260〜530円 |
| グラタン・ド・シュシュ(一皿) | 6〜11€約1,000〜1,900円 |
| 蔓で編んだ帽子 | 25〜60€約4,400〜10,500円 |
- 日本のハヤトウリと同じもの。フランス本土ではクリストフィーヌ
- 味は淡い。何にでも合う代わりに、これ自体が主役にはならない
- 実・若芽・根・蔓、すべて使う。だから「野菜の豚」
- サラジー圏谷が主産地。道の上まで棚が張り出している
- 蔓を編んだ帽子は軽くて土産に向く
- シュシュ祭りの時期は年によって変わる。行くなら事前確認を
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Office de Tourisme de l'Est「Le chouchou à Salazie」 20世紀はじめの栽培開始、生産の90%以上がサラジー産、cochon végétal、実/若芽(ブレッド)/根(パタト・シュシュ)/蔓の利用、帽子1つに約10m・20時間、エルブールのシュシュ祭り
- Île de la Réunion Tourisme「Gastronomie」 島の食材としてのシュシュの位置づけ
写真の出典(7点・10配置)
写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。
- チーズが焼けたグラタン・シュシュをスプーンですくった完成料理|Cirage/Public Domain/2010年撮影/料理と構図を保ったまま明るさ・色・解像感を調整(原典)
- 市場の台に山と積まれたシュシュ(ハヤトウリ)と切ったパパイヤ|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 斜面いっぱいに広がるシュシュの蔓の畑|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 市場に並んだ青梗菜のようなブレッド(葉野菜)の束|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サラジー/エルブールの「シュシュ祭り」第15回のポスター|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- シラオへ登る国道5号沿いの段々畑|MOSSOT/CC BY-SA 3.0/2007年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
image sources
- グラタン・シュシュ(レユニオン島): Cirage / Wikimedia Commons / Public Domain


