世界の料理図鑑 台湾
牛肉麺
牛肉麵 ニウロウミェン Beef Noodle Soup
八角と醤油で煮込んだ牛バラ肉と、太めの麺。台湾に着いて最初に食べるべき一杯。
台湾人に「台湾料理といえば?」と聞くと、かなりの確率でこの一杯が返ってきます。台北市には牛肉麺だけで競う年次コンテストがあり、優勝店の前には一年中行列ができる。
ところがこの料理、台湾の歴史のなかではまだ新参者です。生まれてから百年経っていない。
そして、いま丼のなかにあるものは、ほとんどが台湾の外から来たものでできています。
- 国・地域
- 台湾全土。台北・台中の専門店が特に多い
- 分類
- 麺料理(スープ麺)
- 相場
- NT$150〜250(約705〜1,175円)。高級店はNT$300超も
- 主な材料
- 牛バラ肉・牛スジ、小麦麺、八角・花椒・豆板醤・醤油、青菜(小白菜)、高菜漬け
- 辛さ
- 紅焼は中辛。卓上のラー油で調整。清燉は辛くない
- 食べる場所
- 専門店(牛肉麵店)。朝から夜までやっている店が多い
- ベスト時間
- 昼。夜は売り切れる名店もある
- 一人前
- 日本のラーメン1.2杯ぶん。スープの塩分が強いので飲み干さないのが普通
- 支払い
- 現金が確実。チェーン店はカード・悠遊カード可の場合あり
- 所要
- 注文から着丼まで5〜10分。行列は10〜20分で回る
01一口目に来るもの
スープをひと口。最初に来るのは八角の甘い香りです。日本の醤油ラーメンを想像していると、この漢方めいた香りで一瞬とまどう。
次に醤油のコクと、じわりと来る辛さ。豆板醤の辛さは尖っておらず、後ろからゆっくり押してくる感じ。舌の先ではなく、喉の奥のほうで熱くなる。
そして牛バラ肉。箸で持ち上げると崩れるほど煮えていて、脂身が舌の上で溶ける。噛む必要がほとんどない。この「噛まなくていい肉」が牛肉麺の核心です。
麺は最後に来ます。太めで、すすると弾力が返ってくる。ここまでで、香り→塩気→脂→小麦、と四段階。一口のなかにこれだけ層がある麺料理は、そう多くありません。

02紅焼と清燉——二種類ある
牛肉麺には大きく二系統あります。注文時に必ず選ばされる。
紅焼(ホンシャオ)は、醤油・豆板醤・八角・花椒で煮込んだ赤いスープ。濃くて甘辛く、香辛料が立つ。初めてならこちらです。台湾の牛肉麺といえば普通これを指します。
清燉(チントゥン)は、塩ベースの澄んだスープ。牛の出汁だけで勝負するので、素材の質がそのまま出ます。あっさりしていて、二日目以降や胃が疲れた日に効く。


肉の部位も選べる
多くの店では肉の指定ができます。半筋半肉(バンジンバンロウ)は赤身とスジの両方入り。スジのとろけ具合こそ本番だという人が多く、値段は少し上がりますがこれが正解です。
牛腩(ニウナン)はバラ肉、牛腱(ニウジエン)はすね肉。すね肉は赤身が締まっていて、噛みごたえがあります。
麺の太さを選べる店もあります。細麺・寛麺(幅広)・刀削麺。寛麺はきしめんのように平たく、スープをよく持ち上げる。初めてなら標準の太麺で十分です。



第 二 章
この丼は、移民が持ってきたものでできている
寛麺(幅広麺)の牛肉麺。きしめんのように平たく、スープをよく持ち上げる
03味と食感
麺は太めの小麦麺が主流で、日本のうどんと中華麺の中間くらい。すするとぷつっと切れず、押し返してくる。
スープはかなり塩気が強い。飲み干す前提では作られていません。半分残すのが現地でも普通です。
欠かせないのが卓上の酸菜(スワンツァイ)。高菜の漬物で、無料で好きなだけ入れられます。これを途中で投入すると、酸味と塩気で味が引き締まり、後半がまったく別の料理になる。最初から入れず、半分食べてから足すのが上手い食べ方です。
青菜(小白菜)は箸休め。これも途中で入れて、脂を切ります。
移民が持ってきたものが、丼のなかで一つになる。台湾・牛肉麺
04食べ方の作法
決まりごとは多くありませんが、順番があります。
① まずスープをひと口。何も足さずに店の味を確かめる。② 肉を一切れ。③ 麺。④ ここで酸菜を足す。⑤ 辛いのが好きなら卓上のラー油(辣油)や豆板醤を少し。
麺は音を立ててすすって問題ありません。台湾では日本ほど気にされない。
食べ終わったら食器はそのまま。セルフの店では返却口へ。チップは不要です。


05注文のしかた
「紅燒牛肉麵(ホンシャオ ニウロウミェン)」または「清燉牛肉麵(チントゥン ニウロウミェン)」。この二語で通じます。
肉の指定は「半筋半肉(バンジンバンロウ)」。サイズは「小(シャオ)」「大(ダー)」。
多くの店は入口の券売機か、紙の伝票に自分でチェックを入れる方式です。指さしで完結するので言葉に自信がなくても問題ありません。
パクチーが苦手なら「不要香菜(ブーヤオ シャンツァイ)」。これは台湾旅行で最も使うフレーズです。
06どこで食べる
台北なら永康街の一角に有名店が集中しています。ほかに林東芳、老張、桃源街あたりが定番。どの店も昼は必ず並びますが、回転が速いので10〜20分ほど。
空港から市内に入ってすぐ食べたいなら、台北駅周辺にも専門店が複数あります。九份へ向かう日は、台北で昼に一杯食べてから山を上るのが正解。山の上の店は夕方から混みます。
値段の幅は大きく、屋台に近い店ならNT$150、有名店だとNT$250〜300。安い店が不味いということはまったくないのが台湾のいいところです。



07歴史と背景
牛肉麺の歴史は驚くほど新しく、20世紀半ばに始まります。
1949年の国共内戦の結果、200万人近い中国大陸の人々が台湾へ渡ってきました。彼らが住んだ軍人村を眷村(ジュエンツン)と呼びます。有力な説では、高雄・岡山あたりの眷村で、四川出身の退役軍人が、米軍から支給された牛肉の缶詰を豆板醤・八角・花椒で煮込んだのが紅焼牛肉麺の原型だとされます。
一方の清燉は、甘粛省の蘭州などでイスラム系(回族)が発展させた牛肉麺文化を源流とする説があります。
つまり牛肉麺は、四川の辛さ、蘭州の澄んだスープ、上海の煮込み、そして台湾の小麦麺が一皿に折り重なった料理です。移民の記憶がそのまま丼になっている。だからこれを台湾の国民食と呼ぶのは、単に人気があるからではありません。


08似ている料理
中国大陸の蘭州牛肉麺は、澄んだスープと薄切りの牛肉、ラー油が特徴。台湾の清燉に近いですが、麺が手延べで細く、まったく別の食感です。
日本の醤油ラーメンとは、麺とスープという構造こそ同じでも、香辛料の使い方が違う。八角と花椒が入るかどうかが分水嶺です。
ベトナムのフォーも牛の麺料理ですが、あちらは米麺でハーブを大量に使う。同じ「牛と麺」でも到達点がまったく違う。
台湾国内なら牛肉湯麺(肉なしのスープ麺)や牛肉拌麺(汁なし)も同じ店で頼めます。
09豆知識
・台北市は毎年牛肉麺フェスティバル(台北國際牛肉麵節)を開催しています。優勝店は翌年、行列が倍になる。
・台湾では長らく牛を農耕の家畜として大切にする文化があり、牛肉を食べない習慣が広く残っていました。牛肉麺が国民食になったのは、その禁忌が薄れた戦後のことです。
・スープを飲み干す人はほとんどいません。塩分が高いので、残しても失礼になりません。
・「麵」と「麺」は同じ字。台湾の看板はほぼ「牛肉麵」と繁体字で書かれています。







