世界の料理図鑑 スイス
アルプラーマグローネン
Älplermagronen エルプラーマグローネン Alpine Macaroni
マカロニ、じゃがいも、チーズ、揚げ玉ねぎ。横に必ずりんごのソース。この甘酸っぱさが要る。
皿の上に、マカロニとじゃがいもとチーズが混ざったものが盛られている。上に揚げた玉ねぎ。そして横に、小さな器に入ったりんごのソース。
初めて見たとき、この組み合わせは意味がわかりません。マカロニに、りんご。
一口食べて、二口目でりんごソースをつけると、その瞬間に理解できます。
- 国・地域
- スイス中部の山岳地帯(アルプス地方)
- 分類
- パスタ・じゃがいも料理
- 相場
- CHF 22〜28(約4,400〜5,600円)
- 主な材料
- マカロニ、じゃがいも、生クリーム、チーズ(グリュイエール等)、揚げ玉ねぎ、りんごソース
- 辛さ
- 辛くない
- 食べる場所
- 山小屋レストラン(ベルクハウス)が本場
- ベスト時間
- 昼。山を歩いた日に
- 一人前
- かなり重い。1皿で完全に満腹になる
- 付け合わせ
- アプフェルムース(りんごソース)が必ずつく
- 別名
- 「アルプスの牧童のマカロニ」の意
01一口目に来るもの
まず重さが来ます。フォークですくうと、マカロニとじゃがいもがチーズでつながっていて、まとまって持ち上がる。
口に入れると、生クリームとチーズの脂。塩気は控えめで、乳の甘さが前に出ます。マカロニのもちもちと、じゃがいものほくほくが同時に来る——炭水化物が二種類入っているという事実を、食感が教えてくれる。
上の揚げ玉ねぎが香ばしさと歯ごたえを足す。これがないと全体がぼやけます。
そして三口目あたりで、口の中が脂で埋まってくる。ここでりんごソースの出番です。

02味と食感
マカロニとじゃがいもを一緒に茹で、湯を切り、生クリームとチーズを絡めて、上に揚げ玉ねぎを散らす。それだけの料理です。
チーズはグリュイエールやアルプケーゼ(山のチーズ)。熟成が進んだものを使うと香りが立ち、若いものだとまろやかになる。
じゃがいもは煮崩れる寸前まで火を通します。崩れたじゃがいもがソースにとろみを与えるので、これが実質的なつなぎ。
マカロニは短くて太いもの。日本のマカロニより一回り大きく、穴も太い。ソースが穴に入るかどうかで食べ心地が変わります。

なぜりんごソースなのか
甘酸っぱさがチーズの重さを切ってくれる——これが答えです。
アプフェルムース(Apfelmus)は、りんごを煮て潰しただけの無糖または微糖のソース。日本の感覚では「デザートを主菜にかける」ように見えますが、実際に食べると納得します。
マカロニ+じゃがいも+クリーム+チーズという脂と炭水化物の塊に、酸が一本通る。台湾の魯肉飯に高菜漬けを足すのと同じ役割です。
かけるか、つけるか。店では別皿で来ることが多いので、迷ったら、かける。地元の人はたいてい全体に混ぜてしまいます。


第 二 章
牧童が夏のあいだ、山の上で食べていたもの
大量に作って取り分ける。もともとは山小屋の共同食
03食べ方の作法
作法らしい作法はありませんが、順番だけあります。
まず何もつけずに一口。チーズとクリームの味を確かめる。
次にりんごソースを少し。全体に混ぜてしまう人と、一口ごとにつける人がいます。どちらでも構いません。
量が多いので、前菜は頼まないほうがいい。これ一皿で完全に一食です。
飲みものはビールか白ワイン。山小屋ならリヴェラ(乳清の炭酸飲料)も合います。
マカロニに、りんご。食べるまでは意味がわからない。アルプスの山小屋にて
04注文のしかた
「Älplermagronen(エルプラーマグローネン)」。長いので、メニューを指させば確実です。
ドイツ語圏の山小屋メニューにはほぼ必ずあります。フランス語圏では見かけないことも。
りんごソースは黙っていてもついてきます。もし出てこなければ「Apfelmus bitte」と頼めば持ってきてくれます。
ハーフサイズを出す店もあります。「kleine Portion(クライネ ポルツィオン)」。量が多いので、これで十分な人も多い。
05どこで食べる
山小屋レストラン(ベルクハウス)が本場です。ツェルマット周辺なら、スネガやリッフェルベルクといった中間駅のレストランで食べられます。
町なかのレストランでも出していますが、山の上で食べるほうが確実にうまい。理由は単純で、歩いた後だからです。
値段は山の高さに比例します。町でCHF 22、標高2,500mでCHF 28。
スーパーにはインスタントのアルプラーマグローネンも売っています。CHF 4前後。宿で作れば圧倒的に安い。
ドイツ語圏の中央スイス(ルツェルンやウーリ州)が本来の本場です。ヴァレー州のツェルマットでは、やや「外来の名物」という位置づけ。
06歴史と背景
名前は「アルプラー(Älpler)=アルプスの牧童」の「マグローネン(マカロニ)」という意味です。
夏のあいだ、牛を連れて高地の牧草地に上がった牧童たちが、山小屋で食べていたもの。材料はすべて保存が利くか、その場にあるもの——乾麺、じゃがいも、自分たちが作ったチーズ、そして牛乳。
マカロニがスイスの山に入ってきたのは19世紀後半、鉄道網の整備によって乾麺が安く手に入るようになってからです。意外に新しい料理で、伝統的というより近代の産物。
りんごソースが添えられるようになった経緯ははっきりしませんが、山の下の果樹地帯から運ばれたりんごを保存食にしたものが自然に組み合わさったと考えられます。
あるものだけで作られた——ロシュティやフォンデュと同じ系譜です。
07似ている料理
アメリカのマカロニ・アンド・チーズが最も近い。ただしじゃがいもは入らず、りんごも添えません。
ドイツ南部・オーストリアのケーゼシュペッツレは、麺がマカロニではなく手練りのシュペッツレ。揚げ玉ねぎを載せる点は共通しています。
イタリアのピッツォッケリは、そば粉のパスタとじゃがいもとチーズを合わせたヴァルテッリーナの料理。アルプラーマグローネンにきわめて近い——同じアルプスの南側で、同じ発想の料理が生まれています。
日本のじゃがいものグラタンとは、炭水化物を二重に使うという構造が共通。
08豆知識
・スイスの家庭では残り物処理の料理という位置づけもあります。茹ですぎたじゃがいも、余ったチーズ、乾麺——冷蔵庫の掃除で作れる。
・揚げ玉ねぎはRöstzwiebeln。スーパーで袋入りが買えます。これがあるかないかで別の料理になるので、土産にする人もいる。
・カロリーは1皿で1,000kcalを超えることも。山を歩く前提の料理です。
・スイスの学校給食にも出ます。子どもが好きな料理の上位に必ず入る。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Älplermagronen (5261155534).jpg / Katrin Gilger / CC BY-SA 2.0
- 02/Älplermagronen 2021.jpeg / Adrian Michael / CC BY-SA 4.0
- 03/Alp Tschigla – Leckere Älplermagronen.jpg / Uwe Häntsch / CC BY-SA 2.0
- 04/Älplermagronen.JPG / Pakeha / CC BY-SA 4.0
- 05/Älplermagronen, 2010.jpg / Katrin Gilger / CC BY-SA 2.0
価格は2026年8月時点のツェルマット周辺の相場の目安です。







