
世界の料理図鑑 スイス
ケーゼシュペッツレ
Käsespätzle ケーゼシュペッツレ Cheese Spätzle
卵を練り込んだ生地を鍋の上で削り落として茹でる。チーズを絡め、揚げ玉ねぎを山ほど。
板の上で生地を薄く伸ばし、ナイフで削って熱湯に落とす。浮いてきたら掬い上げる。シュペッツレとは、そういう作り方の麺です。
形はばらばらで、太さも長さも揃っていない。工業製品の対極にある麺で、だから一本ずつ食感が違う。
そこにチーズを絡めて、揚げ玉ねぎを山ほど載せたのがケーゼシュペッツレ。アルプス一帯の「チーズ入り炭水化物」の代表格です。
- 国・地域
- スイス東部・ドイツ南部・オーストリア西部にまたがるアルプス圏
- 分類
- パスタ(手練り麺)
- 相場
- CHF 21〜25(約4,200〜5,000円)
- 主な材料
- 小麦粉、卵、水または牛乳、塩、チーズ(山のチーズ)、揚げ玉ねぎ
- 辛さ
- 辛くない。黒胡椒とナツメグ
- 食べる場所
- 山小屋レストラン・ドイツ語圏のレストラン
- ベスト時間
- 昼または夜。歩いた日に
- 一人前
- 1皿で満腹。アルプラーマグローネンと同格の重さ
- 付け合わせ
- グリーンサラダかりんごソース
- 注意
- ドイツ語圏の料理。フランス語圏では見かけない
01一口目に来るもの
フォークですくうと、麺がチーズでつながって持ち上がります。切れずに、束のまま上がってくる。
噛むと、麺そのものはやわらかい。パスタのような弾力ではなく、すいとんに近いもちっとした歯ざわり。卵が多いぶん、口の中で少しほどける。
そこにチーズの塩気。山のチーズを使うので、香りが強く、後から鼻に抜ける。
そして上の揚げ玉ねぎ。ここがこの料理の主役かもしれません。かりっとした食感と香ばしさが、やわらかい麺とチーズの単調さを断ち切ってくれる。

02味と食感
生地は小麦粉と卵と塩、それに水か牛乳。卵の比率が高いほど黄色く、もちもちになります。スイス東部では卵を多めに使う傾向がある。
茹で上げた麺を、チーズと交互に重ねてオーブンに入れる店もあれば、フライパンで炒め合わせる店もある。前者は層になり、後者は全体が均一になる。
チーズはアルプケーゼやグリュイエールなど、熟成した山のチーズ。フォンデュと違って白ワインが入らないので、チーズの味が直接出ます。
ナツメグを少し効かせるのが定石。乳製品の甘さに輪郭を与える香辛料です。


シュペッツレの作り方
名前は「小さなスズメ(Spatz)」から来ています。麺の形がスズメに似ているから、という説が有力。
伝統的には、濡らした木の板に生地を薄く広げ、ナイフで細く削って直接熱湯に落とす。熟練すると1分間に何十本も落とせる。
現代ではシュペッツレホーベルという専用の器具(穴あき板とスライダー)を使うのが一般的。おろし金のような道具から生地を押し出します。
茹で時間は2〜3分。浮いてきたら上がり。冷水にはさらしません。すぐチーズと合わせる。




第 二 章
スズメの名を持つ、不揃いの麺
サラダを添えたケーゼシュペッツレ。街の食堂でも同じ組み合わせで出る(テュービンゲンで撮影)
03揚げ玉ねぎの量
ケーゼシュペッツレの店ごとの差は、揚げ玉ねぎの量にいちばんはっきり出ます。
少ない店は、上に申し訳程度に散らすだけ。多い店は、麺が見えなくなるほど山盛りにする。後者が正解です。
揚げ玉ねぎ(Röstzwiebeln)は、薄切りの玉ねぎに粉をまぶして揚げたもの。かりかりで、甘くて、香ばしい。
これが入ることで、やわらかい・しょっぱい・脂っこいという三拍子に、かりかりと甘いが加わる。料理としての完成度がここで一段上がります。
足りなければ追加を頼めます。「Mehr Röstzwiebeln bitte」。


揚げ玉ねぎが山盛りの店が、当たり。ドイツ語圏スイスの山小屋にて
04食べ方と付け合わせ
必ずサラダを頼みます。ケーゼシュペッツレ単品では、後半で口が脂に埋まる。グリーンサラダをビネガードレッシングで食べながら進めるのが現地流。
りんごソース(アプフェルムース)を添える店もあります。アルプラーマグローネンと同じ理屈です。
ナイフはほとんど使いません。フォークだけで足ります。
飲みものはビール。ドイツ語圏の料理なので、白ワインよりビールのほうが合う。



05どこで食べる
ドイツ語圏のレストランと山小屋が中心です。ツェルマットはヴァレー州(ドイツ語とフランス語が混在する州)なので、店によって置いていたりいなかったり。
確実に食べたいなら、スイス東部(グラウビュンデン州)やドイツ語圏中央部へ。オーストリアのフォアアールベルクやドイツのアルゴイ地方まで含めると、この料理は一つの文化圏を形成しています。
値段はアルプラーマグローネンとほぼ同じ。CHF 21〜25。
スーパーには生のシュペッツレがパック入りで売っています。CHF 4前後。茹でてチーズを絡めるだけなので、宿で作るのも簡単。

06歴史と背景
シュペッツレの歴史は古く、18世紀のシュヴァーベン地方(ドイツ南西部)の記録に登場します。
当時、この地域では小麦の質が悪く、パンにすると硬くなった。そこで卵を混ぜて練り、茹でて食べた——これがシュペッツレの起源とされます。パンにできない小麦の活用法だった。
アルプスを越えてスイス東部・オーストリア西部へ広がり、それぞれの土地でチーズを合わせる形になりました。
つまりケーゼシュペッツレも足りないものから生まれた料理です。この図鑑に載っている台湾の肉圓、スイスのフォンデュとロシュティ——どれも同じ構造をしている。
アルプス圏では「炭水化物にチーズを絡めて揚げ玉ねぎを載せる」という型が国境を越えて共有されています。名前と麺の形が違うだけで、発想は同じです。
07似ている料理
アルプラーマグローネンは同じスイスの兄弟。麺がマカロニで、じゃがいもが入る。
ドイツのケースシュペッツレは同じもの。アルゴイ地方が本場で、こちらのほうが有名かもしれません。
オーストリアのケーゼクノプフレは、麺の形がより丸く小さい。フォアアールベルク州の名物。
イタリアのピッツォッケリはそば粉の麺にチーズとじゃがいも。アルプスをぐるりと囲むように、同じ発想の料理が並んでいるのがわかります。
ハンガリーのノケドリも同じ製法の麺。中欧全体に広がった技法です。
08豆知識
・シュペッツレホーベル(専用器具)はスイスやドイツのスーパーでCHF 15前後で買えます。土産としては実用的。
・シュヴァーベン地方には「シュペッツレは手で削るもの」という強い信仰があり、機械で作ったものを認めない人もいます。
・卵の量には地域差があり、ドイツ・シュヴァーベンでは小麦粉1kgに卵10個という贅沢な配合も。スイスではもう少し控えめ。
・「Spätzle」は南部方言で、標準ドイツ語なら「Spätzchen」。小さいスズメ、の意味です。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Käsespätzle.jpg / Wiki der Wikinger at German Wikipedia / CC BY-SA 3.0
- 02/Käsespätzle mit Rostzwiebeln.jpg / FakirNL / CC BY-SA 3.0
- 03/2015 0718 Käsespätzle Sölden.jpg / Takeaway / CC BY-SA 4.0
- 04/Käsespätzle mit Zwiebeln und Beilagensalat.JPG / 4028mdk09 / CC BY-SA 3.0
- 05/Käsespätzle – panoramio.jpg / karico / CC BY-SA 3.0
- 06/Käsespätzle Zellbergstüberl.jpg / Benreis / CC BY-SA 4.0
- 07/Techcafe Käsespätzle (259683944).jpg / Stephan Mosel from Hamburg, Germany / CC BY 2.0
- 08/Käsespätzle Wurstküche Tübingen.jpg / Dktue / CC0
- 09/Käsespätzle mit Röstzwiebeln Sieben Schwaben Fürth 20250207-192840 2025-02-07 yj.jpg / Fyrtaarn / CC BY-SA 4.0
- 10/1-Käsespätzle.jpg / Elmschrat / CC BY-SA 4.0
- 11/Käsespätzle 202512 KitzSKi.jpg / Jan Sobotka / CC BY 4.0
- 12/2005-07-31 Kässpätzle Zubereitung.jpg / Stefan-Xp / CC BY-SA 3.0
- 13/Zwiebelrostbraten mit Kässpätzle.jpg / Stefan-Xp / CC BY-SA 3.0
- 14/Kässpätzle, Gourmetvariante.jpg / Alfred Kiefer / CC BY-SA 4.0
価格は2026年8月時点のツェルマット周辺の相場の目安です。







