
ブンリエウ
Bún riêu
田んぼの蟹を、殻ごとつぶして作るスープ
丼の真ん中に、ふわりとした薄茶色のかたまりが浮かんでいる。これが「リエウ」だ。豆腐でもなければ卵でもない。田んぼにいる小さな蟹を、殻ごと臼でつぶし、水に溶いて漉した汁を火にかけると、たんぱく質が固まってこの塊になる。蟹そのものが、形を変えて浮いている。
スープは赤い。トマトを煮くずしたのと、アナトーの油の色だ。酸味はトマトから来ていて、レモンやライムを足さなくてももう酸っぱい。そこへ蟹の風味が加わって、汁ものとしてはかなり複雑な味になる。
麺は細い丸麺のブン。具は店ごとに増えていく。揚げ豆腐、豚の血を固めた煮こごり、豚足、トマト、たまにタニシ。南部の店ほど具が多く、味も少し甘くなる傾向がある。
卓には、もやしと香草の皿。ラウムオン(空芯菜)を細く裂いたもの、バナナの花、しそ、キンザオ。これを丼に沈めて食べる。量が多いので、麺を食べ終わるころには野菜のほうが主役になっていることもある。
北部で生まれた料理だが、ホーチミンでも朝から夕方まで、あちこちの店で食べられる。フォーやブンボーフエほど観光客の口に上らないぶん、地元の人の割合が高い一杯かもしれない。
皿の解剖

リエウの寄り具の数は店ごと。南部では揚げ豆腐と血の煮こごり、豚足が入ることが多い。北部はもっと簡素で、リエウとトマトだけということもある。
一口目
味
酸っぱい。そのあとに、蟹
最初に来るのはトマトの酸味だ。ライムを搾る前から、もう酸っぱい。そのあとから、リエウの蟹の風味がゆっくり広がる。海の蟹よりも土の匂いに近い、田んぼの蟹の味。慣れると、これがないと物足りなくなる。
食感
ふわり、ぷるん、すかすか
リエウはレンゲですくうと崩れるほど柔らかい。血の煮こごりはぷるんとしていて、揚げ豆腐はすかすかでスープを吸っている。同じ丼の中で、三つの柔らかさがまったく違う。
一口目
リエウを崩さずに、そのまま
最初のひとさじは、真ん中に浮いているリエウをそっとすくって、崩さずに口へ。これが蟹そのものだと分かると、そのあとのスープの味が違って感じられる。混ぜるのは、そのあとでいい。


一杯ができるまで
生きた田蟹を洗い、甲羅を外して、殻ごと臼でつぶす。いまは機械で挽く店が多い。水を足してよく混ぜ、布で漉す。
殻ごとつぶすのが、この料理のいちばんの手間漉した汁を弱火にかけ、静かに温める。かき混ぜずに待つと、たんぱく質が固まってふわりとした塊になり、表面に浮いてくる。
かき混ぜると、塊にならず散ってしまう
3別の鍋で、トマトを油で炒めて煮くずす。アナトーの油を加えて赤い色をつけ、蟹の汁と合わせる。
色はアナトー、酸味はトマトから
4茹でた細麺を丼にとり、スープを張る。揚げ豆腐、血の煮こごり、豚足、トマトをのせ、浮いたリエウをそっと移す。青ねぎを散らす。
リエウは崩さないように、最後にのせる田んぼの蟹を、汁にする知恵
田んぼの蟹から
リエウに使うのは海の蟹ではなく、水田にいる小さな田蟹(cua đồng)。身をほじるには小さすぎるので、殻ごとつぶすという方法が生まれた。
つぶして、漉して、固める
つぶした蟹を水に溶いて漉し、その汁を静かに温めると、たんぱく質が固まって浮いてくる。これがリエウ。豆腐に似た原理。
北はもみ酢、南はトマト
北部では発酵させた米の酢(giấm bỗng)で酸味をつけることがある。南部ではトマトが主で、そのぶん色も赤くなる。
具が増えていく
揚げ豆腐、血の煮こごり、豚足、タニシ。南へ来るほど丼の中がにぎやかになり、味も少し甘くなる。
リエウ・オック・ゾーヘオ
bún riêu cua(蟹)、bún riêu ốc(タニシ)、bún riêu giò heo(豚足)。看板の後ろの言葉が、その店の主役を言っている。
リエウというものの正体を知ったとき、少し感心した。使うのは水田にいる小さな蟹で、大きさは親指ほど。身をほじって食べるには小さすぎるし、殻をむくのも面倒だ。そこで、殻ごとつぶしてしまう。つぶした身と殻を水に溶いて、布で漉す。残った汁を静かに温めると、蟹のたんぱく質がゆっくり固まって、ふわりとした塊になって浮いてくる。
この原理は豆腐に近い。豆をつぶして絞った汁を固めるのが豆腐なら、蟹をつぶして絞った汁を固めるのがリエウだ。食べられないほど小さいものを、食べられる形に変換する知恵——そう考えると、ずいぶん理屈の通った料理に見えてくる。
酸味の出どころは、南と北で違う。南部ではトマトを煮くずして酸味と赤い色をつける。北部では、発酵させた米の汁(giấm bỗng)を使うことがあり、そのぶん色は薄く、酸味はもっと尖っている。同じ名前でも、口に入れた瞬間の印象がかなり変わる。
南へ来ると、丼の中が増えていく。揚げ豆腐が入り、豚の血を固めた煮こごりが入り、豚足が入り、店によってはタニシが入る。看板に「bún riêu ốc」と書いてあれば、それはタニシ入りという意味だ。北部の簡素な一杯とくらべると、別の料理と言ってもいいくらい賑やかになる。
ホーチミンでブンリエウを食べていると、まわりの客がほとんど地元の人であることに気づく。フォーやブンボーフエほど観光の話題に上らないせいだろう。そのぶん、店の卓の上には香草の皿が山盛りで置かれていて、みんな当たり前のように何度もつまんで丼に沈めている。あの野菜の量に、この一杯の日常性が出ていると思う。


リエウの作り方や酸味のつけ方は地域と店で幅がある。ここに書いたのは、ホーチミンでよく見る形を中心にしている。北部のものは、これより簡素で酸味の出どころも違う。
食べに行く前に
注文のことば
朝から昼にかけての店が多い。香草の皿は一度に全部入れず、半分ずつ沈めると、最後まで香りが残る。
値段と覚え書き
| 屋台の一杯 | 30,000〜45,000 VND約180〜270円 |
| 店の一杯(具だくさん) | 45,000〜70,000 VND約270〜420円 |
| 具の追加(豆腐・豚足) | 10,000〜20,000 VND約60〜120円 |
- cua=蟹、ốc=タニシ、giò heo=豚足。看板の後ろの言葉がその店の主役
- リエウは崩れやすい。最初のひとさじは、そっとすくう
- トマトの酸味がもともと強いので、ライムは足す前に一口味わってから
- 血の煮こごり(huyết)が苦手なら「không huyết」で抜いてくれる
- 卓の発酵えびペースト(mắm tôm)は好みで。入れると味がかなり変わる
- 香草の皿はおかわりできる店が多い
値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Wikipedia tiếng Việt「Bún riêu」 リエウの作り方・種類・地域差
- Wikimedia Commons「Category:Bún riêu」 各地の盛り付けの写真
写真の出典(7枚)
写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 木の卓に赤いスープの丼。トマトと蟹のそぼろ、青ねぎ。奥に香草の皿とライム|HungryHuy/CC BY 2.0/2019年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 白い丼に細い米麺、蟹のそぼろ、豚の血の煮こごり、揚げ豆腐、トマト、豚肉、青ねぎ|Alpha/CC BY-SA 2.0/2010年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 細い米麺と蟹のそぼろの寄り。赤い油の浮いたスープ|Alpha/CC BY-SA 2.0/2010年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 薄緑の丼に、蟹のそぼろ、揚げ豆腐、血の煮こごり、トマト、青ねぎ|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2018年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 石の卓に丼と、もやしと香草を盛った皿。箸が丼に渡してある|Schellack/CC BY 3.0/撮影年不明・明るさ調整あり(原典)
- 赤い卓の上の丼。澄んだスープに蟹のそぼろ、揚げ豆腐、豚肉、香草|Alpha/CC BY-SA 2.0/2010年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 薄緑の丼を上から見たところ。具が円く並んでいる|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2018年撮影・明るさ調整あり(原典)
装飾
紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。
写真は7枚すべてCCライセンス(Wikimedia Commons)。明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。撮影地には国外のベトナム料理店を含み、すべてがホーチミンで撮られたものではない。


