鶏排

世界の料理図鑑 台湾

鶏排

雞排 ジーパイ Taiwanese Fried Chicken Cutlet

鶏胸肉を一枚、平たく叩き伸ばして揚げる。顔より大きい。NT$80。

紙袋から、顔より大きいものがはみ出している。夜市を歩いていると、これを持った人と必ずすれ違います。

鶏胸肉を一枚まるごと、叩いて薄く広げて揚げる。ただそれだけの料理が、台湾の夜市でいちばん目立つ食べものになっている理由は、食べてみればわかります。

ちなみにこの料理、台湾の屋台料理のなかでは最も若い部類です。

国・地域
台湾全土。士林夜市が発祥地とされる
分類
揚げもの
相場
NT$80前後(約375円)。大きいサイズはNT$100前後
主な材料
鶏胸肉、サツマイモ粉(地瓜粉)、醤油・五香粉・漢方の下味、胡椒・唐辛子粉
辛さ
注文時に「辣(辛さ)」の有無を選べる
食べる場所
夜市の屋台。専門チェーンも多い
ベスト時間
夜。揚げたてを狙う
一人前
1枚。2人で分けてちょうどいいサイズ
支払い
現金が基本。チェーン店はカード可の場合も
待ち時間
揚げるのに5〜8分。行列は見た目より進みが遅い

01一口目に来るもの

まず音です。噛むと、袋の外まで聞こえるほどのざくっという音がする。

衣はサツマイモ粉。小麦粉の衣より粗く、ごつごつしていて、剥がれるのではなく砕ける。この食感が台湾の揚げものの特徴です。

その下から、胸肉の繊維がほどける。パサつく直前で止まっている。薄く叩いてあるので火の通りが速く、水分が飛びきる前に揚げ上がる。

そして最後に、五香粉と白胡椒の香り。これが日本の唐揚げと決定的に違うところ。八角、シナモン、丁子の混ざった漢方めいた香りが、鶏の脂に乗って立ち上がってきます。

02味と食感

鶏胸肉を叩いて薄く伸ばすのが最大の工夫です。厚みが均一になり、短時間で揚がり、面積が増える。安い胸肉を最大限に見せる技術でもあります。

下味は醤油・にんにく・五香粉に一晩漬け込む。店によっては漢方(当帰や甘草)を加える。「秘伝の漢方ダレ」を売りにする屋台は多い。

衣の地瓜粉(サツマイモ澱粉)は粒が粗く、揚げると独特のざらついた表面になります。小麦粉の衣のような滑らかさはない。

揚げ上がったあと、上から胡椒塩と唐辛子粉をふる。これが仕上げ。ここで辛さの有無を聞かれます。

脂っこさは意外に少ない。胸肉なので、揚げものとしてはあっさりしています。

鶏排
紙袋に入れて渡される。袋のまま持って歩き、上から食べていく
鶏排
トングで大きな鶏排を一枚つかみ上げる屋台の売り手(中壢の夜市で撮影)

鹹酥雞との違い

台湾の揚げ鶏には、もうひとつ有名なものがあります。鹹酥雞(シェンスージー)です。

鶏排が「一枚もの」なのに対し、鹹酥雞は一口大に切った唐揚げ。量り売りで、好きな具材をカゴに入れて渡すと、まとめて揚げてくれる。

鹹酥雞の店では、鶏以外にイカ、イカゲソ、いんげん、椎茸、餃子の皮、四季豆などを一緒に揚げられます。最後に九層塔(台湾バジル)をひとつかみ油に落とし、香りをつける。この葉が入るかどうかで別ものになります。

つまり、鶏排は「一枚を持って歩く」料理、鹹酥雞は「袋に詰めて分け合う」料理。夜市では両方売っていることが多いので、人数に応じて選ぶといい。

鶏排(ジーパイ)鹹酥雞(シェンスージー)
形胸肉一枚を叩いて揚げる一口大に切って揚げる
買い方1枚いくら量り売り。具材を選べる
香りの決め手五香粉と白胡椒九層塔(台湾バジル)
人数1人で持ち歩く複数人で分ける
値段NT$80前後100gでNT$50前後
鶏排
焼き網の上で油を切る。揚げたてはここに数十秒だけ置かれる
鶏排
皿に盛った形。座って食べる店ではソースが添えられる
鶏排
紙袋のまま持って歩く。これが正しい食べ方
鶏排

第 二 章

1990年代、士林から始まった

夜市の鶏排屋台。看板に「大」の字が並ぶのは、大きさが売りだから

03食べ方の作法

紙袋のまま食べます。皿に出しません。袋の口から出ている部分を手で持って、上からかじる。

切ってもらうこともできます。「切(チエ)」と言えば、ハサミで一口大にしてくれる店が多い。歩きながら食べるなら切ってもらったほうが確実に楽。

冷めると衣が湿気ます。揚げたてから10分が勝負。行列に並んででも揚げたてを狙う価値がある料理です。

飲みものは無糖の茶か台湾ビール。タピオカミルクティーと合わせると甘さが競合して重くなります。

量が多いので、夜市で他のものを食べたいなら2人で1枚。1人1枚食べるとそれで終わりです。

鶏排
揚げた鶏排を穴あきのトレーに置き、瓶から粉の調味料を振りかける
鶏排
仕込みの様子。この音がしている店は当たり

顔より大きい、が売り文句として通用する国。台湾・夜市

04注文のしかた

「雞排、一份(ジーパイ、イーフン)」=鶏排ひとつ。

必ず聞かれるのが辛さです。「要辣嗎?(ヤオラーマ)」=辛くする? 答えは「要(ヤオ)」か「不要(ブーヤオ)」。中辛にしたければ「小辣(シャオラー)」。

胡椒については何も言わなければ標準量がかかります。「不要胡椒(ブーヤオ フージャオ)」で抜けます。

切ってほしければ「幫我切(バンウォチエ)」。

番号札を渡されたら、呼ばれるまで待つ。揚げるのに5〜8分かかります。

揚げもの屋台の相場(2026年8月時点の目安)価格
鶏排(標準サイズ)NT$80前後/約375円
鶏排(特大)NT$100前後/約470円
鹹酥雞(一口サイズの唐揚げ)100gNT$50前後/約235円
揚げイカ・揚げ野菜などNT$30〜60/約140〜280円
台湾ビール(缶)NT$45前後/約210円

05どこで食べる

発祥は士林夜市とされます。1990年代前半に創業した屋台が巨大な鶏排で有名になり、そこから台湾中に広がりました。士林の店は今も行列ができています。

台北なら士林、寧夏、饒河街、師大。大学の近くには必ずあるのも特徴で、学生の定番のおやつです。

チェーン店も多く、駅前や商店街に路面店として出ています。屋台より清潔で、値段はほぼ同じ。

九份では基山街に揚げもの屋台があります。ただし九份は階段の町なので、大きい鶏排を持って歩くのは想像以上に大変。切ってもらうことを強くおすすめします。

鶏排
油から上げるところ。屋台の前で揚げているので待ち時間がある
鶏排
屋台の作業台。仕込みの量がそのまま行列の長さになる

06歴史と背景

鶏排の歴史は新しく、1990年代に始まります。台湾の屋台料理のなかでは最も若い部類。

士林夜市の入口付近で1992年に創業した屋台が、「顔より大きい」というサイズを売りにしたことで一気に有名になりました。以来、大きさの競争が続いています。

背景には、当時の台湾でブロイラーの胸肉が安く大量に手に入るようになったことがあります。脂の少ない胸肉をどう食べさせるか——叩いて広げ、澱粉の衣で包み、五香粉で香りを立てる。この解答が鶏排でした。

いまや台湾の学生の定番おやつであり、輸出もされている。台湾の食文化がまだ現在進行形で作られていることの、いい証拠です。

鶏排
歩道の鶏排の屋台に並ぶ、同人誌即売会の参加者やコスプレイヤー(台北で撮影)
鶏排
夜市の通り。揚げものの匂いは遠くまで届く

07似ている料理

日本の唐揚げは一口大でもも肉が主流、下味は醤油・生姜・にんにく。五香粉が入らないのが最大の違いです。

日本のチキンカツは形が近いですが、パン粉の衣なので食感がまったく違う。

韓国のヤンニョムチキンはタレをまとわせる。台湾の鶏排は粉をふるだけで、タレをつけない。

中国の炸雞排や東南アジアの類似品は、そのほとんどが台湾の鶏排から派生したものです。

08豆知識

・紙袋の底に穴が開いていることがあります。蒸気を逃がして衣が湿気るのを防ぐため。破れているわけではありません。

・台湾では鶏排を「一份(イーフン)」と数えます。「一枚」ではない。

・胸肉を叩く音は屋台の前まで聞こえます。仕込みの音がしている店は当たり。冷凍の既製品を揚げるだけの店とは、そこで見分けがつきます。

・鶏排を挟んだバーガーや、切って麺に載せた「雞排麵」もあります。台湾ではまだ派生が増え続けています。

為替レート:1台湾ドル(NT$)=約4.7円で換算しています(2026年8月時点)。価格・営業時間は変動します。現地で必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点の現地相場の目安です。/参考:鶏排は1990年代の士林夜市発祥とされる。