世界の料理図鑑 スイス
ツォプフ
Zopf ツォプフ Swiss Braided Bread
ちぎるとふわりと湯気が上がり、内側が絹のように白い。スイスの日曜の朝はここから始まる。
朝、ツェルマットのパン屋に入ると、編み込まれた黄金色のパンが並んでいます。表面は艶があり、卵を塗って焼いた光沢。
丸ごと1本 CHF 5〜8(約1,000〜1,600円)。ちぎると湯気が上がり、内側は驚くほど白い。
スイスではこれを日曜の朝に食べると決まっています。
- 国・地域
- スイス全土。とくにドイツ語圏。ベルン州発祥説が有力
- 分類
- パン(菓子パン寄り)
- 相場
- 丸ごと1本 CHF 5〜8(約1,000〜1,600円)
- 主な材料
- 小麦粉、牛乳、バター、イースト、卵、塩、砂糖少々
- 甘さ
- ほとんど甘くない。バターの香りが主役
- 食べる場所
- パン屋・スーパー・ホテルの朝食
- ベスト時間
- 朝。とくに日曜の朝
- 一人前
- 1本で2〜4人ぶん
- 食べ方
- 手でちぎる。バターとジャムを塗る
- 日持ち
- 当日中がうまい。翌日はトーストに
01一口目に来るもの
手でちぎるところから始まります。ナイフを使う人もいますが、朝食のツォプフは手で裂くのが普通です。
裂いた瞬間、ふわりと湯気が上がり、内側が現れる。この白さに驚く。表面の黄金色とのコントラストが強い。
口に入れると、まずバターの香り。次に牛乳の甘さ。砂糖はほとんど入っていないのに、はっきり甘く感じます。
食感は繊維が縦に走っていて、裂けるように口の中でほどける。ブリオッシュほど脂っこくなく、食パンよりずっと軽い。何もつけなくても成立します。

02味と食感
生地は小麦粉・牛乳・バター・イースト。水ではなく牛乳で捏ねるのがツォプフの定義です。ここから乳の甘さが来る。
バターの量は生地の10%前後。ブリオッシュ(20〜50%)よりずっと控えめで、だから軽い。
焼く前に表面に溶き卵を塗ります。これが焼き色と艶を作る。塗らないと白っぽく仕上がって、ツォプフらしくならない。
編み込みは2本編みが最も一般的。3本、4本、6本編みもあり、編み目が多いほど断面が均一になります。
焼き上がりの内側が絹のように白いのが良いツォプフ。黄色っぽいのは卵を生地に入れすぎたもので、それはブリオッシュに近づいています。


なぜ日曜の朝なのか
スイスでは「Sonntagszopf(日曜のツォプフ)」という言葉があります。
かつて農家では、日曜だけがまとまった休みでした。平日は硬い黒パン、日曜だけバターと牛乳を使った白いパンを焼く——これが習慣になった。
バターも牛乳も、当時は貴重品です。ハレの日の食べものだった。
いまでも日曜の朝にツォプフを買う人は多く、土曜の夕方から日曜の午前にかけてパン屋の店頭に山積みになります。平日はあまり置いていない店もある。
旅行者としては、日曜の朝にパン屋へ行くのがいちばん確実です。



第 二 章
日曜だけ、白いパンを焼いた
パン屋の棚。編み目の数は店の流儀による
03食べ方の作法
手でちぎるのが基本。朝食の卓に一本置いて、各自が裂いて取る。
バターを塗る——ツォプフ自体にバターが入っているのに、さらに塗る。スイスではこれが普通です。
ジャムはあんず、いちご、またはツヴェッチュゲン(プルーン)。スイスのジャムは甘さ控えめで果肉が多い。
塩気のものを載せてもいい。チーズやハムを載せる人も多い。ホテルの朝食ビュッフェではこの食べ方が一般的。
コーヒーかミルクコーヒー(Milchkaffee)と一緒に。ツォプフとコーヒーだけで、スイスの朝食は完成します。


平日は黒パン、日曜だけ白いパン。それがごちそうだった時代がある。スイスの日曜のツォプフ
04注文のしかた
「Zopf(ツォプフ)」。フランス語圏では「tresse(トレス)」——どちらも「編んだもの」という意味です。
パン屋では丸ごと1本か半分(halber Zopf)で売っています。1本CHF 5〜8、半分ならCHF 3〜4。
1本は2〜4人ぶん。ひとり旅なら半分で十分です。
スーパー(CoopやMigros)にも必ずあります。焼きたてではありませんが、CHF 4前後と安い。
朝早いほど焼きたてに当たります。ツェルマットのパン屋は7時前後から開いています。
05どこで食べる
パン屋(Bäckerei)が基本です。ツェルマットのバーンホフ通りにも何軒かあり、朝は焼きたてが並びます。
ホテルの朝食ビュッフェにもほぼ確実にあります。スイスのホテル朝食の中心にあるパン。
スーパーは安くて確実。ただし焼きたてには勝てません。
山へ持っていくのに向いています。軽くて、崩れにくく、そのまま食べられる。行動食として優秀。
値段はスイスの物価としては安いほう。CHF 5で数人ぶんの朝食になるので、外食を減らしたい旅程では強い味方です。



06歴史と背景
ツォプフの記録は15世紀のスイスまで遡ります。当時から編んだ形で焼かれていた。
なぜ編むのか。実用的な理由としては、編むことで火の通りが均一になり、崩れずに大きく焼けることが挙げられます。
もう一つ、民俗学的な説があります。かつてこの地方では、夫を亡くした妻が自らの編んだ髪を切って棺に納める習慣があった。それが象徴的なパンに置き換わったのがツォプフだという説です。
確かなのは、これが日曜と祝日のパンだったということ。バターと牛乳という贅沢な材料を使い、時間をかけて編む。手間をかけること自体が意味を持つ食べものでした。
ベルン州が発祥とされることが多く、ロシュティと同じくドイツ語圏スイスを代表する存在です。


07似ている料理
ユダヤ教のハッラー(Challah)は最も近い。安息日に食べる編みパンで、形も役割もそっくりです。ただしバターは使いません(肉料理と食べるため乳製品を避ける)。
ドイツのヘーフェツォプフはほぼ同じもの。イースターに食べます。
フランスのブリオッシュはバターと卵がずっと多く、菓子に近い。
日本の食パンとは、牛乳とバターを使う点は共通ですが、編まない・ちぎらない・日曜と結びつかないという三点で別物です。
「休日に白いパンを焼く」という習慣は、ヨーロッパのキリスト教圏とユダヤ教圏に広く共通しています。
08豆知識
・「Zopf」はドイツ語で「編んだ髪(三つ編み)」そのものを指す言葉です。パンの名前としてはかなり直接的。
・スイスのスーパーにはZopfmehl(ツォプフ用小麦粉)という専用の粉が売っています。土産にすると喜ばれる。
・翌日以降は硬くなりますが、トーストすると復活します。バターを塗って焼くとさらに良い。
・日曜の朝、パン屋の前に行列ができていたら、たいていツォプフを買う人たちです。






