ターメリック色のソースをまとったヴァンダイユ・ド・トン(マグロ)
レユニオン / フランス海外県

ヴァンダイユ・ド・トン

Vindaye de thon

「にんにくのワイン」という名前が、インドを回って島に着いた

RÉUNION11
冷めてからが、おいしい。

海沿いの食堂のガラスケースに、黄色いソースをまとった魚が並んでいることがある。ヴァンダイユ(vindaye/vendaye)だ。マグロやカジキの切り身を、マスタード、ターメリック、にんにく、生姜、酢で和えた料理で、温かいうちに食べるものではない。冷めて、味がしみてからが本番になる。

見た目は魚のカレー煮に近いが、決定的に違うのが酢が入っていること。この酸が保存の役割を果たしていて、冷蔵庫のない時代には数日もたせるための工夫だった。だから作りたてより、一晩おいたもののほうがおいしいと言われる。

名前をたどると遠くまで行く。ポルトガル語の carne de vinha d'alhos(にんにくのワインで漬けた肉)が16世紀にゴアへ渡り、現地でヴィンダルー(vindaloo)になった。そこからインド洋の島々へ入り、レユニオンやモーリシャスでヴァンダイユになった。ワインは酢に、肉は魚に置きかわったが、「酸とにんにくで漬ける」という骨格だけがそのまま残っている。

使う魚はマグロ(トン)が多い。ほかにカジキ(エスパドン、マルラン)、シイラ(ドラード)でも作る。島のまわりで獲れる大きな魚は、たいていヴァンダイユになりうる。

食べ方は前菜か、白飯を添えた一皿。パンにはさむこともある。酸っぱくてしっかり味がついているので、暑い日でも進む。

マグロ+マスタード+酢14〜22€(約2,500〜3,900円)語源はポルトガル語「にんにくのワイン」
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皿の中身

ターメリック色のソースをまとったヴァンダイユ・ド・トン(マグロ)
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白背景のキハダマグロ(トン・アルバコール)の標本写真使う魚:キハダマグロ

ターメリック色のソースをまとったヴァンダイユ・ド・トン(2011年撮影)

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ターメリック色のソースla sauce jauneターメリックとマスタードでこの色になる。カリの黄色とは別で、酸が入っているぶん明るい
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マグロの身le thon焼くか揚げるかしてから漬ける。火を通しすぎるとぱさつくので、表面だけ固めるくらい
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マスタードの粒graines de moutarde粒のまま入れる作り方が多い。噛むとぷちっと弾けて辛味が出る
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玉ねぎoignon薄切りを一緒に漬ける。酢を吸って半分ピクルスのようになる
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一口目

味

酸が主役

最初に酢の酸が来て、そのすぐ後にマスタードの鼻に抜ける辛味が続く。ターメリックの土っぽい香りとにんにくが下支えして、魚の脂をさっぱりさせる。カリのようなまろやかさは狙っていない。

食感

身はしまり、玉ねぎはしんなり

魚は一度火を通してから漬けるので、身がしまっている。ほろほろではなく、繊維に沿ってはがれる感じ。一緒に漬けた玉ねぎは酢を吸ってしんなりし、ピクルスに近い歯ざわりになる。

温度

冷たいまま出てくる

温め直さない。ガラスケースに並んでいるものをそのまま皿に取ってくれる。暑い日に食べると、この冷たさと酸がちょうどいい。

白背景のメカジキ(エスパドン)の標本写真
白背景で撮影されたメカジキ(エスパドン)。これでもヴァンダイユは作られる
白背景のシイラ(ドラード)の標本写真
シイラ(ドラード)。島のまわりで獲れる大きな魚はたいてい候補になる
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作り方

1魚に火を通す

切り身に塩をして、油で焼くか揚げる。中まで火を通しすぎるとぱさつくので、表面をしっかり固める程度でよい。

マグロ、カジキ、シイラなど
真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台2
香辛料と唐辛子をそろえる

ターメリック、マスタード(粒または粉)、にんにく、生姜、唐辛子。市場の唐辛子売り場には小粒のものが山になっている。

マスタードは粒のまま入れる作り方が多い
「Combava Pays 1€ pièce」の手書き札を立てたコンバヴァのかご3
コンバヴァを少し

コンバヴァ(こぶみかんの一種)の皮を削って入れる家もある。柑橘の香りが魚のくせを切る。「Combava Pays」の札が立っていれば島産。

入れない家もある。必須ではない
4酢で和える

香辛料をペーストにして油で炒め、酢を加えてソースを作る。そこへ焼いた魚と薄切りの玉ねぎを入れて和える。

酢の量が保存性を決める
露天市の葉物野菜と唐辛子、レモンの売り台5
一晩おく

容器に移して冷まし、できれば一晩おく。味がしみて、酸が角の取れた形になる。食堂ではガラスケースに並べて、冷たいまま出す。

作りたてより翌日のほうがよいとされる
マグロ(またはカジキ・シイラ)マスタード(粒/粉)ターメリックにんにく生姜唐辛子玉ねぎ酢油塩
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この一皿の来歴

16世紀

ポルトガル人がゴアへ

1501年にポルトガルがインドに拠点を築き、1530年にゴアが首府になる。ワインとにんにくで肉を漬ける carne de vinha d'alhos が持ち込まれる。

16〜19世紀

ゴアでヴィンダルーになる

現地の料理人がワインの代わりにヤシ酒から作った酢を使い、香辛料を足した。これがヴィンダルー(vindaloo)として定着する。

18〜19世紀

インド洋の島々へ

人の移動とともにインド洋を渡り、レユニオンやモーリシャスに入る。肉は島でよく獲れる魚に置きかわった。

20世紀

食堂の定番に

冷たいまま出せて日持ちもする料理として、食堂のガラスケースの常連になる。

現在

魚は何でも

マグロ、カジキ、シイラ。獲れた大きな魚がそのままヴァンダイユになる。

この料理の面白さは、名前が航海の記録になっているところにある。ポルトガル語の vinha d'alhos は「にんにくのワイン」。それがゴアで vindaloo になり、インド洋を渡ってこの島で vindaye になった。三つの言葉を並べると、音がだんだん崩れていくのがわかる。料理そのものより、名前のほうが長く旅をしている。

中身も同じように置きかわっている。ワインは酢に、豚肉は魚に、ヨーロッパの香草はターメリックとマスタードに。それでも「酸とにんにくに漬ける」という一点だけは、500年たっても変わっていない。これはもともと保存のための技術で、冷蔵庫がなかった時代にはどうしても必要な骨格だった。

「日持ちする」という性質は、いまでも食堂の商売と相性がいい。ガラスケースに並べて、冷たいまま出せる。温め直す手間もいらない。だから昼の混む時間でも待たされずに出てくる。旅行者にとっては、注文してすぐ食べられる料理でもある。

この島でよく使われる魚は、マグロ(トン)、メカジキ(エスパドン)、クロカジキ(マルラン・ブルー)、シイラ(ドラード)。どれもインド洋の大きな回遊魚で、市場に並ぶ切り身も大きい。一度に大量に作ってしまうヴァンダイユは、こういう魚の使い方としてよくできている。

食べるなら、暑い日の昼がいい。酸っぱくて冷たいものが、その日いちばんおいしく感じられる。白飯と一緒でも、パンにはさんでもいける。

vinha d'alhos → vindaloo → vindaye という語のつながりは、広く語られている整理をもとに書いている。使う魚・酢の量・マスタードの形(粒/粉)は、家庭・店によって幅がある。

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この一皿の余話

ことばの旅

ポルトガル語→ゴア→インド洋。名前だけが旅を続けた

ポルトガル語の carne de vinha d'alhos は「にんにくのワインで漬けた肉」という意味だった。1501年にポルトガルがインドに拠点を築き、この料理がゴアへ渡る。現地ではワインが手に入らないので、ヤシ酒から作った酢に置きかえ、香辛料を足した。それが vindaloo になり、インド洋を渡ってこの島で vindaye になった。vinha d'alhos / vindaloo / vindaye。声に出して並べると、音が少しずつ削れていくのがわかる。

技術の話

「酸で漬ける」は、冷蔵庫の代わりだった

ヴァンダイユに酢が入っているのは、味のためだけではない。酸性にすることで日持ちさせるのが本来の目的だった。冷蔵設備のない時代、暑い島で魚を数日もたせるには、この方法しかなかった。いまは冷蔵庫があるので保存の必要はないが、「一晩おいたほうがおいしい」という食べ方だけが習慣として残っている。技術が要らなくなっても、味の記憶のほうが残った例だ。

皿の話

温め直さない料理という珍しさ

この島の料理はたいてい熱いものだ。カリもマサレもシヴェも、鍋から出したてを食べる。そのなかでヴァンダイユは例外で、冷たいまま出てくる。食堂ではガラスケースに並んでいて、頼むとそのまま皿に取ってくれる。だから待たされない。昼の混む時間に急いでいるとき、これを選ぶ人は多い。冷たいことが欠点ではなく、そういう料理として設計されている。

短い話

  • 1
    表記は vindaye / vendayeメニューで綴りが揺れる。どちらも同じもの。
  • 2
    魚の種類は書いてあることが多いvindaye de thon(マグロ)、d'espadon(メカジキ)、de dorade(シイラ)。魚名を見れば中身がわかる。
  • 3
    翌日がおいしい作りたてより一晩おいたもの。店のガラスケースのものは、たいてい前日仕込み。
  • 4
    マスタードは粒のまま噛むとぷちっと弾けて辛味が出る。粉を使う店もある。
  • 5
    パンにはさめるサンドイッチの具にもなる。持ち歩きに向く。
  • 6
    辛さは控えめなことが多い辛味より酸が主役。辛いものが苦手でも試しやすい。
黄色い日よけを張ったサン・ポールの海沿いレストラン
黄色い日よけを張ったサン・ポールの海沿いレストラン。魚料理はこういう店で(2011年撮影)
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食べに行く前に

注文のことば

Un vindaye de thon, s'il vous plaît.アン・ヴァンダイユ・ドゥ・トン、シル・ヴ・プレ/マグロのヴァンダイユを1つください
C'est servi froid ?セ・セルヴィ・フロワ?/冷たいまま出ますか?
C'est quel poisson ?セ・ケル・ポワソン?/どの魚ですか?
C'est très vinaigré ?セ・トレ・ヴィネグレ?/かなり酸っぱいですか?
Je peux l'emporter ?ジュ・プ・ランポルテ?/持ち帰れますか?

海沿いの食堂やクレオール料理店のガラスケースに並んでいることが多い。冷たいまますぐ出してくれるので、昼の混む時間でも待たされない。持ち帰りにもしやすい。

値段と覚え書き

食堂の一皿(白飯つき)14〜22€約2,500〜3,900円
前菜として7〜12€約1,200〜2,100円
持ち帰り(量り売り)10〜16€約1,800〜2,800円
  • 綴りは vindaye / vendaye どちらもある
  • 冷たいまま出てくる。温め直さないのが普通
  • 酸が主役。辛さは控えめなことが多い
  • マグロ以外にカジキ・シイラでも作る
  • 一晩おいたほうがおいしい。店のものは前日仕込みが多い
  • パンにはさんで軽食にもなる

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(11枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。

  • 海辺の木組みのビーチレストラン|mwanasimba from La Réunion/CC BY-SA 2.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • ターメリック色のソースをまとったヴァンダイユ・ド・トン(マグロ)|Thomasnalem/CC BY-SA 4.0/2013年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白背景のキハダマグロ(トン・アルバコール)の標本写真|Hugues Evano / IFREMER/CC BY 4.0/2016年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白背景のメカジキ(エスパドン)の標本写真|Hugues Evano / IFREMER/CC BY 4.0/2016年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白背景のシイラ(ドラード)の標本写真|Hugues Evano / IFREMER/CC BY 4.0/2016年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 「Combava Pays 1€ pièce」の手書き札を立てたコンバヴァのかご|Marie-angele.joly/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 露天市の葉物野菜と唐辛子、レモンの売り台|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ピエールの屋根付き市場の外観|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 黄色い日よけを張ったサン・ポールの海沿いレストラン|mwanasimba from La Réunion/CC BY-SA 2.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)

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