
ガトー・シュマン・ド・フェール
Gâteau chemin de fer
「鉄道のケーキ」。名前の由来は、誰も知らない
パン屋の棚に、真っ赤な菓子が置いてある。表面に赤い砂糖をまとい、ココナツの細片がふりかけてある。切ると中は渦巻きで、白いバニラのクリームが巻き込まれている。名前はガトー・シュマン・ド・フェール(gâteau chemin de fer)。訳すと「鉄道のケーキ」だ。
なぜ鉄道なのか。断面の層が線路に見えるから、かつて駅で売られていたから、汽車の色に似ているから──いくつもの説明が語られている。ただし、フランス語の菓子事典にもはっきり「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。決着していない。
確かなのは、この島にかつて鉄道があったということだ。19世紀後半に開通し、島の海岸沿いを走っていた。1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っている。その路線は20世紀のうちに廃止され、いまはもうない。
菓子そのものは単純だ。小麦粉と片栗粉と膨らし粉で薄い生地を焼き、バニラのクリームを塗って巻き、外側に赤く着色した砂糖をまぶし、ココナツをふる。ロールケーキの一種と言っていい。
赤の派手さのわりに、味はおとなしい。甘いが軽く、クリームは控えめ。おやつの時間にコーヒーと一緒に食べる菓子で、パン屋にもスーパーの菓子売り場にも並んでいる。
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同じ棚に並ぶガトー・ティ・ソン(とうもろこし粉の菓子)赤い衣をまとい、断面にクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール(2011年撮影)
一口目
味
見た目ほど甘くない
真っ赤な外見から想像するより、ずっとおとなしい味。砂糖の甘さが先に来て、そのあとバニラのクリームがほのかに続く。生地自体はほとんど味がないので、全体として軽い。
食感
しっとりした生地と、ざらつく表面
巻けるように焼いた生地はしっとりしていて、噛むとすっと切れる。外側の砂糖とココナツがざらっとして、そこだけ歯ざわりが違う。
見た目
棚でいちばん目立つ
パン屋の棚に並ぶ島の菓子はどれも茶色や生成り色なので、この赤だけが浮いている。初めて見た人が必ず「あれは何」と聞く菓子。


作り方
小麦粉、片栗粉、膨らし粉に卵と砂糖を合わせて、天板に薄くのばして焼く。巻けるように、焼きすぎない。
厚いと巻いたときに割れるバニラのクリームを生地の上に塗り、端から巻いていく。冷めきる前に巻くのがこつとされる。
この渦巻きが断面の「線路」になる外側に赤く着色した砂糖をまぶし、ココナツの細片をふる。パン屋や市場ではこの状態で棚に並ぶ。
赤は着色。天然の色ではない切り分けて紙に包んで渡す店が多い。ホールで売っていることもある。
島の菓子の棚では、これだけ色が違う午後3時のおやつ(goûter)に、コーヒーや紅茶と一緒に。食後のデザートとしても出てくる。
甘さが軽いので、苦い飲みものと合うこの菓子の来歴
島に鉄道が通る
島の海岸沿いに鉄道が開通し、人と物を運ぶ主要な交通になる。駅は町の中心になった。
駅と町のにぎわい
1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っている。この時代の島の日常のなかに鉄道があった。
鉄道が消える
道路輸送に置きかわり、路線は廃止される。いま島に鉄道はない。
名前だけが残った
路線がなくなっても、菓子の名前としての「シュマン・ド・フェール」は残った。パン屋の棚に毎日並んでいる。
はっきりしていない
断面が線路に似ているから、駅で売られていたから、など複数の説明が語られているが、菓子の事典にも「正確には分かっていない」と書かれている。
食べものの名前には、由来が分からなくなっているものがときどきある。この菓子はその典型で、フランス語の菓子事典にまで「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。誰も知らないまま、みんなが呼び続けている。
語られている説明はいくつかある。断面の渦巻きが線路の枕木に見えるから。かつて駅の売店で売られていたから。汽車の車体の色に似ているから。どれももっともらしいが、裏づけがない。逆に言えば、それだけ古くから島にある菓子だということでもある。
確かなのは、この島にかつて鉄道が走っていたということだ。19世紀後半に開通して海岸沿いを走り、20世紀のうちに廃止された。1930年ごろのサン・ドニ駅の絵はがきが残っていて、そこには駅舎と人の姿がある。いまその路線はない。名前だけが菓子の中に残っている。
菓子としては、島でいちばん見つけやすいもののひとつだ。パン屋の棚に並ぶ島の菓子──ガトー・パタト、ガトー・ティ・ソン、ボンボン・ミエル──はどれも茶色か生成り色で、そのなかでこれだけが真っ赤に光っている。探す必要がない。
味は見た目ほど主張しない。甘いが軽く、バニラのクリームは控えめ。ガトー・パタトのようにみっしり詰まっていないので、コーヒーの横に置くのにちょうどいい。色に驚いて、味におとなしさに二度驚く菓子だ。

名前の由来については複数の説明が語られているが、確定した説はない。本文でも「諸説あり」として扱っている。赤い色は着色によるもの。
この菓子の余話
名前の由来は、菓子の事典にも「分からない」と書いてある
断面の渦巻きが線路の枕木に見えるから。駅の売店で売られていたから。汽車の色に似ているから。ガトー・シュマン・ド・フェールの名前の由来として、島ではいろいろな説明が語られている。ただしフランス語の菓子事典にははっきり「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。誰も由来を知らないまま、全員が同じ名前で呼び続けている菓子だ。
島には、かつて鉄道が走っていた
19世紀後半、レユニオンには海岸沿いを走る鉄道が開通した。人と物を運ぶ主要な交通で、駅は町の中心だった。1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っていて、そこには駅舎と行き交う人の姿がある。その路線は20世紀のうちに道路輸送に置きかわり、廃止された。いま島に鉄道はない。線路は消えたが、菓子の名前としての「鉄道」だけが残っている。
島の菓子の棚で、これだけが赤い
パン屋や市場に並ぶ島の菓子は、ガトー・パタトも、ガトー・ティ・ソンも、ボンボン・ミエルも、ボンボン・ラ・ルルートも、どれも茶色か生成り色をしている。素材の色そのままだからだ。そのなかでガトー・シュマン・ド・フェールだけが真っ赤に光っている。だから初めて棚を見た人は、必ずこれを指して「あれは何」と聞く。目立つことが、この菓子がいまも作られ続けている理由のひとつかもしれない。
短い話
- 1赤は着色外側にまぶす砂糖を赤く着色している。果物の色ではない。
- 2中身はバニラのクリームジャムだと思われがちだが、基本はバニラのクリーム。店によって配合は違う。
- 3ロールケーキの一種薄く焼いた生地にクリームを塗って巻く。作り方はロールケーキとほぼ同じ。
- 4ココナツがかかっている赤い砂糖の上から細片をふる。表面のざらつきはこれ。
- 5切り売りが多い1切れずつ紙に包んで渡してくれる。ホール売りもある。
- 6日持ちはしないクリームが入っているので土産には向かない。現地で食べる菓子。

食べに行く前に
注文のことば
パン屋、スーパーの菓子売り場、市場。島の菓子の棚でいちばん目立つので探すのは簡単。切り売りしている店が多い。午後のおやつの時間に合わせると回転がよい。
値段と覚え書き
| 1切れ(パン屋・市場) | 2〜4€約350〜700円 |
| ホール | 14〜22€約2,500〜3,900円 |
| 食堂のデザート | 4〜7€約700〜1,200円 |
- 見た目は派手だが、味は軽くておとなしい
- 中身はバニラのクリーム。ジャムではない
- 赤い色は着色。果物の色ではない
- 名前の由来は確定していない。店の人に聞くと答えが分かれる
- クリーム入りなので日持ちしない。土産には向かない
- ガトー・パタトやボンボン類と一緒に買って食べ比べるのがいい
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Gastronomiac「Gâteau chemin de fer」 バニラクリームを巻き、赤く着色した砂糖とココナツをまとう構成。小麦粉・片栗粉・膨らし粉の生地。名前の由来は「正確には分かっていない」
- Cuisine Réunionnaise「Gâteau chemin de fer réunionnais」 島の家庭での作り方
写真の出典(11枚)
写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0/パブリックドメイン)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。
- 1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがき|Unknown authorUnknown author/Public domain/1930年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール|Fabimaru/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 白い皿にのせた三角形のガトー・ティ・ソンと、2杯のお茶|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 透明トレーに入ったドーナツ型のボンボン・ミエル|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 割れ目の入った白っぽい丸い焼き菓子、ボンボン・ラ・ルルート|B.navez/CC BY-SA 3.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- パラソルが並び買い物客であふれるサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト(さつまいもの菓子)|A FREE KA SMILE 4 ALL/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サン・ピエールの屋根付き市場の外観|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 市場のサトウキビ搾り機と「JUS 2€ le litre CANNE PÉI」の札、そばでギターを弾く人(白黒写真)|Sarah Duprat1/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)


