赤く染まった塩漬け豚バラ(ブカネ)が山盛りになった売り場
レユニオン / フランス海外県

ブカネ

Boucané

「海賊」という英語の語源になった、燻製小屋の名前

RÉUNION15
赤いのは、色をつけているから。

市場の精肉売り場に、赤く染まった豚バラが山盛りになっていることがある。ブカネ(boucané)。香辛料に漬けて、塩をして、乾かして、薪の火でじっくり燻した豚肉だ。生の豚バラの隣に並んでいるので、色の違いですぐわかる。

作り方は名前が示している。boucan(ブカン)は古いフランス語で「肉や魚を燻すための木の小屋」のこと。その小屋で作業する人を boucanier(ブカニエ)と呼んだ。この言葉がカリブ海の海賊たちに使われるようになり、英語に入って buccaneer(バッカニア=海賊)になった。ブカネという料理の名前は、そこから枝分かれした兄弟にあたる。

燻すのは豚だけではない。鶏、魚、ソーセージ、それにシヴェ・タングで知られるタングも燻される。共通しているのは、香辛料に漬けて、塩をして、乾かして、薪の上で香草と一緒にじっくり蒸し燻すという手順だ。

料理としていちばん有名なのがルガイユ・ブカネ。燻した豚をトマト、玉ねぎ、唐辛子と炒め合わせる。ブランジェル(島のなす)を入れることもある。白飯と豆を添えて、島の食堂の日替わりの常連になっている。

燻製なので保存がきく。冷蔵設備のない時代、豚をさばいたあとに肉を長くもたせる方法として広まった。いまは味のために作られているが、成り立ちはルガイユ・モリュの干し鱈と同じで、保存の技術から始まっている。

薪で燻した豚バラ一皿 12〜18€(約2,100〜3,200円)boucan→boucanier→buccaneer(海賊)
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売り場を見る

値札を添えて店頭に吊るされたブカネ(燻製豚バラ)
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「Boucané maigre」の札をつけた赤身の燻製豚の売り場「Boucané maigre」=赤身のブカネ

値札を添えて店頭に吊るされたブカネ(燻製豚バラ)(2011年撮影)

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燻された表面la surface fumée薪の煙で色がつく。表面が乾いて締まり、香りが入る
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脂の層le grasバラ肉なので脂と赤身が層になっている。炒めると脂が溶けて味が出る
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吊るして売るsuspendu精肉店では吊るして並べる。塊で買って、家で切る
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値札l'étiquette「boucané」「boucané maigre(赤身)」など、部位と種類が書いてある
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一口目

味

煙と塩が先に来る

最初にくるのは薪の煙の香り。そのあとに塩気と、豚の脂の甘み。ルガイユにするとトマトの酸と唐辛子が加わって、輪郭がはっきりする。塩気が強めなので、白飯の量が普段より多くなる。

食感

締まっていて、噛みごたえがある

乾かして燻してあるので、生の豚より身が締まっている。炒めると脂の部分がとろけて、赤身の部分は繊維に沿って裂ける。ほろほろにはならない。

出し方

ルガイユとして

いちばん多いのはルガイユ・ブカネ。トマト・玉ねぎ・唐辛子と炒め合わせる。ブランジェル(島のなす)を入れることもある。白飯、豆、ブレッドと一緒に。

店頭の赤いトレーに並べられたザンドゥイユ(クレオール風アンドゥイユ)
店頭の赤いトレーに並べられたザンドゥイユ(クレオール風アンドゥイユ)。同じ豚の売り場にある(2011年撮影)
生のソシス・ペイ(レユニオンの豚ソーセージ)が輪になって並ぶ
生のソシス・ペイ(レユニオンの豚ソーセージ)。これも燻すとブカネになる(2005年撮影)
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作り方

真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台1
香辛料に漬ける

にんにく、生姜、唐辛子、タイムなどを合わせて豚バラに揉み込み、しばらく置く。市場の唐辛子売り場には小粒のものが山になっている。

漬けてから塩をするのが基本の順番
2塩をして、乾かす

塩をあてて水分を抜き、風に当てて乾かす。ここで表面が締まると、煙がのりやすくなる。

保存性を決める工程
3薪の上で、蓋をして燻す

木の火の上に置き、葉や香りのある植物・ハーブと一緒に、蓋をして長い時間かけて燻す。直火で焼くのではなく、煙と熱でゆっくり火を通していく。

これが boucan(燻製小屋)でやっていた作業
4市場で売る

塊のまま精肉店や市場に並ぶ。「boucané」「boucané maigre(赤身)」など種類が書いてある。量り売りで買って、家で切る。

生の豚の隣にあるので、色で見分けられる
5ルガイユにする

切ったブカネをトマト、玉ねぎ、唐辛子と炒め合わせる。ブランジェル(島のなす)を入れることもある。白飯と豆を添えて出す。

これがルガイユ・ブカネ
豚バラ肉にんにく生姜唐辛子タイム塩薪と香りのある葉トマト玉ねぎブランジェル(島のなす)
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この一皿の来歴

古いフランス語

boucan は燻製小屋

肉や魚を燻すための木の小屋を boucan と呼んだ。クレオール語では bokaem。そこで働く人が boucanier。

17世紀

カリブ海の海賊へ

この燻製の技術と言葉がカリブ海に渡り、そこで暮らす者たちを boucanier と呼ぶようになる。英語に入って buccaneer(海賊)になった。

植民地時代

保存の技術として

冷蔵設備のない島で、豚をさばいたあとに肉を長くもたせる方法として広まる。

20世紀

ルガイユ・ブカネが定着

トマトと唐辛子で炒め合わせる形が島の定番になり、食堂の日替わりの常連になる。

現在

豚だけではない

鶏、魚、ソーセージ、そしてタングも燻される。「ブカネ」は肉の名前ではなく、作り方の名前。

ブカネという言葉の旅は、この島の料理のなかでもとくに遠い。もともとは古いフランス語で「肉や魚を燻すための木の小屋」を指す boucan。その小屋で働く人が boucanier。この言葉がカリブ海に渡り、そこで暮らして船を襲うようになった者たちの呼び名になり、英語に入って buccaneer──日本語でいう「バッカニア(海賊)」になった。

つまり、レユニオンの市場に吊るされている赤い豚バラと、カリブ海の海賊は、同じ語源から出ている。片方は料理の名前として、もう片方は略奪者の呼び名として、別々の方向へ育った。語源をたどると、こういう分岐に出くわすことがある。

料理としての骨格は、ルガイユ・モリュとよく似ている。保存のために手を加えた食材が、そのまま味として好まれ、定番の料理になった。干し鱈は塩と乾燥、ブカネは塩と乾燥と燻煙。どちらも冷蔵庫のない時代の必要から生まれて、いまは味のために作られている。

「ブカネ」は肉の種類ではなく、作り方の名前だという点は覚えておくといい。豚が最も多いが、鶏のブカネ、魚のブカネ、ソーセージのブカネもある。シヴェ・タングで知られるタングも燻される。メニューで boucané とあったら、何を燻したものか聞くのが確実だ。

市場では塊で売られていて、見た目でわかる。生の豚が薄い桃色なのに対して、ブカネは赤く、表面が乾いて締まっている。「boucané maigre」と書いてあれば赤身のもの。旅行者が買って帰るのは難しいが、売り場を見るだけでも面白い。

boucan → boucanier → buccaneer という語のつながりはフランス語版の解説による。燻す時間や香草の種類は、作り手によって幅がある。

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この一皿の余話

ことばの旅

「海賊」という英語は、燻製小屋から生まれた

boucan は古いフランス語で「肉や魚を燻すための木の小屋」。その小屋で働く人を boucanier(ブカニエ)といった。この技術と言葉がカリブ海に渡り、そこで暮らす者たちの呼び名になり、やがて船を襲う者たちを指すようになる。英語に入って buccaneer(バッカニア=海賊)。レユニオンの市場に吊るされた赤い豚バラと、カリブ海の海賊は、同じ語源から枝分かれした兄弟だ。クレオール語では bokaem と言う。

分類の話

「ブカネ」は肉の名前ではなく、作り方の名前

いちばん多いのは豚だが、鶏のブカネ、魚のブカネ、ソーセージのブカネもある。ギアナでは狩りの獲物、レユニオンではタングも燻される。共通しているのは「香辛料に漬け、塩をし、乾かし、木の火の上で葉や香りのある植物と一緒に、蓋をして長く燻す」という手順のほうだ。だからメニューに boucané とだけ書いてあったら、何を燻したものか聞いてみるといい。

技術の話

干し鱈と同じ発想からできている

ブカネもルガイユ・モリュも、出発点は保存だ。冷蔵設備のない島で、肉や魚を長くもたせる方法として生まれた。干し鱈は塩と乾燥、ブカネは塩と乾燥に燻煙を足したもの。どちらも必要から始まって、いつのまにか味として好まれ、定番の料理になった。技術が要らなくなっても、その味だけが残る。この島の食卓には、そういう料理がいくつもある。

短い話

  • 1
    色で見分けられる生の豚が薄い桃色、ブカネは赤く表面が乾いている。市場では隣に並んでいる。
  • 2
    「maigre」は赤身boucané maigre と書いてあれば脂の少ない部位。脂が苦手ならこちら。
  • 3
    ルガイユ・ブカネが定番トマト・玉ねぎ・唐辛子と炒め合わせる。ブランジェル(島のなす)が入ることも。
  • 4
    塩気が強い白飯と豆と一緒に食べる前提の味つけ。単体では塩辛く感じる。
  • 5
    ソシス・ペイも燻す島の豚ソーセージ。生のものと燻したものが両方売られている。
  • 6
    持ち帰りには向かない肉製品なので国をまたぐ持ち出しには制限がある。現地で食べるもの。
クレオール料理店の手書きメニュー表
クレオール料理店の手書きメニュー。ルガイユ・ブカネは日替わりの常連(2009年撮影)
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食べに行く前に

注文のことば

Un rougail boucané, s'il vous plaît.アン・ルガイユ・ブカネ、シル・ヴ・プレ/ルガイユ・ブカネを1つください
C'est du porc ?セ・デュ・ポール?/豚肉ですか?
C'est fumé au feu de bois ?セ・フュメ・オ・フー・ド・ボワ?/薪で燻したものですか?
C'est très salé ?セ・トレ・サレ?/かなり塩辛いですか?
Avec du riz et des grains.アヴェック・デュ・リ・エ・デ・グラン/ご飯と豆を添えて

クレオール料理店の日替わりに載っていることが多い。市場や精肉店では塊で吊るして売られていて、生の豚と色で見分けられる。買って帰るのは難しいが、売り場は見る価値がある。

値段と覚え書き

ルガイユ・ブカネ(一皿)12〜18€約2,100〜3,200円
ブカネ(精肉店・1kg)12〜20€約2,100〜3,500円
市場の惣菜(量り売り)8〜14€約1,400〜2,500円
  • 「ブカネ」は作り方の名前。豚以外に鶏・魚・ソーセージもある
  • boucané maigre は赤身。脂が苦手ならこちら
  • 塩気が強い。白飯と豆と一緒に食べる前提
  • ルガイユ・ブカネが定番。ブランジェル(島のなす)入りもある
  • 生の豚と色で見分けられる。市場では隣に並んでいる
  • 肉製品なので持ち出しには制限がある

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

  • Wikipédia(fr)「Boucané」 boucan=燻製用の木の小屋、クレオール語 bokaem、boucanier→buccaneer、漬ける・塩をする・乾かす・薪と香草で蒸し燻すという手順、鶏/魚/豚/ソーセージ/タング、ルガイユ・ブカネとブランジェル

写真の出典(11枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。

  • 赤く染まった塩漬け豚バラ(ブカネ)が山盛りになった売り場|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 値札を添えて店頭に吊るされたブカネ(燻製豚バラ)|Matthieu Sontag (Mirgolth)/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 「Boucané maigre」の札をつけた赤身の燻製豚の売り場|Matthieu Sontag (Mirgolth)/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 店頭の赤いトレーに並べられたザンドゥイユ(クレオール風アンドゥイユ)|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2007年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 生のソシス・ペイ(レユニオンの豚ソーセージ)が輪になって並ぶ|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • パラソルが並び買い物客であふれるサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ピエールの屋根付き市場の外観|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • クレオール料理店の手書きメニュー表|Nop112233/CC BY-SA 4.0/2015年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)