赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール
レユニオン / フランス海外県

ガトー・シュマン・ド・フェール

Gâteau chemin de fer

「鉄道のケーキ」。名前の由来は、誰も知らない

RÉUNION16
線路は、もうない。

パン屋の棚に、真っ赤な菓子が置いてある。表面に赤い砂糖をまとい、ココナツの細片がふりかけてある。切ると中は渦巻きで、白いバニラのクリームが巻き込まれている。名前はガトー・シュマン・ド・フェール(gâteau chemin de fer)。訳すと「鉄道のケーキ」だ。

なぜ鉄道なのか。断面の層が線路に見えるから、かつて駅で売られていたから、汽車の色に似ているから──いくつもの説明が語られている。ただし、フランス語の菓子事典にもはっきり「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。決着していない。

確かなのは、この島にかつて鉄道があったということだ。19世紀後半に開通し、島の海岸沿いを走っていた。1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っている。その路線は20世紀のうちに廃止され、いまはもうない。

菓子そのものは単純だ。小麦粉と片栗粉と膨らし粉で薄い生地を焼き、バニラのクリームを塗って巻き、外側に赤く着色した砂糖をまぶし、ココナツをふる。ロールケーキの一種と言っていい。

赤の派手さのわりに、味はおとなしい。甘いが軽く、クリームは控えめ。おやつの時間にコーヒーと一緒に食べる菓子で、パン屋にもスーパーの菓子売り場にも並んでいる。

赤い衣とココナツの巻き菓子1切れ 2〜4€(約350〜700円)名前の由来は不明とされる
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赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール
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白い皿にのせた三角形のガトー・ティ・ソンと、2杯のお茶同じ棚に並ぶガトー・ティ・ソン(とうもろこし粉の菓子)

赤い衣をまとい、断面にクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール(2011年撮影)

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赤い砂糖の衣le sucre rouge外側を覆う着色した砂糖。この赤さがそのまま菓子の名前の印象になっている
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ココナツnoix de coco赤い砂糖の上からふりかける。かすかにざらつく口あたりが加わる
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巻き込まれたクリームcrème vanilleバニラのクリーム。生地に塗って巻く。層が線路に見えるという説明の元になっている部分
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生地le biscuit小麦粉・片栗粉・膨らし粉。薄く焼いて巻けるようにする
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一口目

味

見た目ほど甘くない

真っ赤な外見から想像するより、ずっとおとなしい味。砂糖の甘さが先に来て、そのあとバニラのクリームがほのかに続く。生地自体はほとんど味がないので、全体として軽い。

食感

しっとりした生地と、ざらつく表面

巻けるように焼いた生地はしっとりしていて、噛むとすっと切れる。外側の砂糖とココナツがざらっとして、そこだけ歯ざわりが違う。

見た目

棚でいちばん目立つ

パン屋の棚に並ぶ島の菓子はどれも茶色や生成り色なので、この赤だけが浮いている。初めて見た人が必ず「あれは何」と聞く菓子。

透明トレーに入ったドーナツ型のボンボン・ミエル
透明トレーに入ったドーナツ型のボンボン・ミエル(2011年撮影)
割れ目の入った白っぽい丸い焼き菓子、ボンボン・ラ・ルルート
割れ目の入った白っぽい丸い焼き菓子、ボンボン・ラ・ルルート(2011年撮影)
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作り方

1薄い生地を焼く

小麦粉、片栗粉、膨らし粉に卵と砂糖を合わせて、天板に薄くのばして焼く。巻けるように、焼きすぎない。

厚いと巻いたときに割れる
2クリームを塗って巻く

バニラのクリームを生地の上に塗り、端から巻いていく。冷めきる前に巻くのがこつとされる。

この渦巻きが断面の「線路」になる
3赤い砂糖をまとわせる

外側に赤く着色した砂糖をまぶし、ココナツの細片をふる。パン屋や市場ではこの状態で棚に並ぶ。

赤は着色。天然の色ではない
4市場・パン屋で売る

切り分けて紙に包んで渡す店が多い。ホールで売っていることもある。

島の菓子の棚では、これだけ色が違う
5おやつの時間に

午後3時のおやつ(goûter)に、コーヒーや紅茶と一緒に。食後のデザートとしても出てくる。

甘さが軽いので、苦い飲みものと合う
小麦粉片栗粉膨らし粉卵砂糖バニラ牛乳(クリーム用)着色した砂糖(赤)ココナツの細片
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この菓子の来歴

19世紀後半

島に鉄道が通る

島の海岸沿いに鉄道が開通し、人と物を運ぶ主要な交通になる。駅は町の中心になった。

20世紀前半

駅と町のにぎわい

1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っている。この時代の島の日常のなかに鉄道があった。

20世紀後半

鉄道が消える

道路輸送に置きかわり、路線は廃止される。いま島に鉄道はない。

現在

名前だけが残った

路線がなくなっても、菓子の名前としての「シュマン・ド・フェール」は残った。パン屋の棚に毎日並んでいる。

由来

はっきりしていない

断面が線路に似ているから、駅で売られていたから、など複数の説明が語られているが、菓子の事典にも「正確には分かっていない」と書かれている。

食べものの名前には、由来が分からなくなっているものがときどきある。この菓子はその典型で、フランス語の菓子事典にまで「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。誰も知らないまま、みんなが呼び続けている。

語られている説明はいくつかある。断面の渦巻きが線路の枕木に見えるから。かつて駅の売店で売られていたから。汽車の車体の色に似ているから。どれももっともらしいが、裏づけがない。逆に言えば、それだけ古くから島にある菓子だということでもある。

確かなのは、この島にかつて鉄道が走っていたということだ。19世紀後半に開通して海岸沿いを走り、20世紀のうちに廃止された。1930年ごろのサン・ドニ駅の絵はがきが残っていて、そこには駅舎と人の姿がある。いまその路線はない。名前だけが菓子の中に残っている。

菓子としては、島でいちばん見つけやすいもののひとつだ。パン屋の棚に並ぶ島の菓子──ガトー・パタト、ガトー・ティ・ソン、ボンボン・ミエル──はどれも茶色か生成り色で、そのなかでこれだけが真っ赤に光っている。探す必要がない。

味は見た目ほど主張しない。甘いが軽く、バニラのクリームは控えめ。ガトー・パタトのようにみっしり詰まっていないので、コーヒーの横に置くのにちょうどいい。色に驚いて、味におとなしさに二度驚く菓子だ。

黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト(さつまいもの菓子)
黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト。同じ棚に並ぶ島の代表的な菓子(2013年撮影)

名前の由来については複数の説明が語られているが、確定した説はない。本文でも「諸説あり」として扱っている。赤い色は着色によるもの。

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この菓子の余話

諸説あり

名前の由来は、菓子の事典にも「分からない」と書いてある

断面の渦巻きが線路の枕木に見えるから。駅の売店で売られていたから。汽車の色に似ているから。ガトー・シュマン・ド・フェールの名前の由来として、島ではいろいろな説明が語られている。ただしフランス語の菓子事典にははっきり「この有名な名前がどこから来たのか、正確には分かっていない」と書かれている。誰も由来を知らないまま、全員が同じ名前で呼び続けている菓子だ。

消えたもの

島には、かつて鉄道が走っていた

19世紀後半、レユニオンには海岸沿いを走る鉄道が開通した。人と物を運ぶ主要な交通で、駅は町の中心だった。1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがきが残っていて、そこには駅舎と行き交う人の姿がある。その路線は20世紀のうちに道路輸送に置きかわり、廃止された。いま島に鉄道はない。線路は消えたが、菓子の名前としての「鉄道」だけが残っている。

棚の話

島の菓子の棚で、これだけが赤い

パン屋や市場に並ぶ島の菓子は、ガトー・パタトも、ガトー・ティ・ソンも、ボンボン・ミエルも、ボンボン・ラ・ルルートも、どれも茶色か生成り色をしている。素材の色そのままだからだ。そのなかでガトー・シュマン・ド・フェールだけが真っ赤に光っている。だから初めて棚を見た人は、必ずこれを指して「あれは何」と聞く。目立つことが、この菓子がいまも作られ続けている理由のひとつかもしれない。

短い話

  • 1
    赤は着色外側にまぶす砂糖を赤く着色している。果物の色ではない。
  • 2
    中身はバニラのクリームジャムだと思われがちだが、基本はバニラのクリーム。店によって配合は違う。
  • 3
    ロールケーキの一種薄く焼いた生地にクリームを塗って巻く。作り方はロールケーキとほぼ同じ。
  • 4
    ココナツがかかっている赤い砂糖の上から細片をふる。表面のざらつきはこれ。
  • 5
    切り売りが多い1切れずつ紙に包んで渡してくれる。ホール売りもある。
  • 6
    日持ちはしないクリームが入っているので土産には向かない。現地で食べる菓子。
市場のサトウキビ搾り機と「JUS 2€ le litre CANNE PÉI」の札、そばでギターを弾く人(白黒写真)
市場のサトウキビ搾り機と「JUS 2€ le litre CANNE PÉI」の札。砂糖の島の甘いものは種類が多い(2011年撮影)
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食べに行く前に

注文のことば

Une part de chemin de fer, s'il vous plaît.ユヌ・パール・ドゥ・シュマン・ド・フェール、シル・ヴ・プレ/シュマン・ド・フェールを1切れください
C'est quoi, le rouge ?セ・コワ、ル・ルージュ?/この赤いのは何ですか?
Il y a quoi à l'intérieur ?イリヤ・コワ・ア・ランテリユール?/中身は何ですか?
C'est très sucré ?セ・トレ・スュクレ?/かなり甘いですか?
Avec un café, s'il vous plaît.アヴェック・アン・カフェ、シル・ヴ・プレ/コーヒーと一緒にお願いします

パン屋、スーパーの菓子売り場、市場。島の菓子の棚でいちばん目立つので探すのは簡単。切り売りしている店が多い。午後のおやつの時間に合わせると回転がよい。

値段と覚え書き

1切れ(パン屋・市場)2〜4€約350〜700円
ホール14〜22€約2,500〜3,900円
食堂のデザート4〜7€約700〜1,200円
  • 見た目は派手だが、味は軽くておとなしい
  • 中身はバニラのクリーム。ジャムではない
  • 赤い色は着色。果物の色ではない
  • 名前の由来は確定していない。店の人に聞くと答えが分かれる
  • クリーム入りなので日持ちしない。土産には向かない
  • ガトー・パタトやボンボン類と一緒に買って食べ比べるのがいい

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(11枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0/パブリックドメイン)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。

  • 1930年ごろのサン・ドニ駅を写した絵はがき|Unknown authorUnknown author/Public domain/1930年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール|Fabimaru/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白い皿にのせた三角形のガトー・ティ・ソンと、2杯のお茶|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 透明トレーに入ったドーナツ型のボンボン・ミエル|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 割れ目の入った白っぽい丸い焼き菓子、ボンボン・ラ・ルルート|B.navez/CC BY-SA 3.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • パラソルが並び買い物客であふれるサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト(さつまいもの菓子)|A FREE KA SMILE 4 ALL/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ピエールの屋根付き市場の外観|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 市場のサトウキビ搾り機と「JUS 2€ le litre CANNE PÉI」の札、そばでギターを弾く人(白黒写真)|Sarah Duprat1/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)

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