
ガトー・パタト
Gâteau patate
さつまいもとバニラで作る、島のおやつの真ん中
レユニオンで「デザートは?」と聞くと、まずガトー・パタト(gâteau patate)の名前が出てくる。さつまいもを蒸してつぶし、バター、卵、砂糖、小麦粉、バニラ、そして家によってはラム酒を混ぜて焼いた菓子だ。見た目は素朴で、色は黒っぽい茶色。派手さはまったくない。
作り方も単純で、材料も高価なものではない。だからこそ、どの家でも作られ、どのパン屋にも置いてある。島の公式観光情報でも「有名なガトー・パタト」「レユニオンのデザート」という書かれ方をしていて、代表的な菓子として扱われている。
食べる場面は幅広い。食後のデザートにも、午後3時のおやつ(goûter)にも、小腹がすいたときのつなぎにもなる。切り分けて紙に包んで渡してくれる店が多く、歩きながら食べている人もいる。
似た菓子はインド洋とカリブ海の各地にある。モーリシャス、フランス領アンティル諸島にも同じ名前の菓子がある。さつまいもという安く手に入る芋と、砂糖と、バニラ。植民地の島に共通していた材料でできているからだろう。
この島で作ると、バニラが入る。地元産のバニラを使えば、素朴な芋の菓子の香りが一段変わる。ブルボン・ポワントゥのコーヒーと合わせるのが、島の公式情報でもすすめられている食べ方だ。
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同じおやつの時間に並ぶガトー・ティ・ソン(とうもろこし粉の菓子)黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト。扉の一皿を、もういちど(2013年撮影)
一口目
味
芋の甘みが先、バニラが後
最初にさつまいものおだやかな甘みが来て、そのあとからバニラの香りが立ち上がる。砂糖の甘さは強すぎず、バターの塩気がうしろで支える。ラム酒を入れた家のものは、鼻に抜ける香りが一段強い。
食感
ケーキよりプディングに近い
ふんわりはしていない。しっとりして、みっしり詰まっている。芋の繊維がわずかに残っていて、口の中でほどけていく。冷やすとさらに締まる。
合わせるもの
コーヒーか、紅茶
島の公式情報ではブルボン・ポワントゥのコーヒーと合わせることがすすめられている。甘さが控えめなので、苦いものとよく合う。午後の一杯と一緒に。


作り方
洗って皮ごと蒸す。茹でると水を吸って生地がゆるくなるので、蒸すほうがよいとされる。柔らかくなったら皮をむいてつぶす。
公式のレシピでも「蒸す」と指定されているつぶした芋に、バター、卵、砂糖、小麦粉、バニラを混ぜる。家によってはここでラム酒を加える。膨らし粉はあまり使わない。
バニラは莢を割いて種をこそげて入れる
3市場にはマニョック(キャッサバ)も並んでいる。これはガトー・パタトの材料ではないが、同じように菓子や主食に使われる島の芋類のひとつ。
写真はキャッサバ。さつまいもではない
4カンバー(ダイジョ)は切ると鮮やかな紫色をしている。ソンジュ(タロイモ)もある。島の台所には芋の選択肢がいくつもあり、菓子にも料理にも使われる。
写真はカンバー。ガトー・パタトには使わない
5型に流して170℃ほどで焼く。表面が乾いて色がつき、竹串を刺して生地がつかなくなったら焼き上がり。冷ましてから切る。
温かいうちに切ると崩れるこの菓子の来歴
さつまいもが島の食べものになる
安く育ち、収量が多いさつまいもが、島の主食と菓子の材料として広まる。
バニラが加わる
1841年の人工受粉法の発見でバニラが商品作物になり、島の菓子に地元産のバニラが入るようになる。
おやつとして定着
食後のデザート、午後のおやつ、小腹のつなぎ。どの場面にも使える菓子として、家庭とパン屋の両方に居場所を得る。
島を代表する菓子
島の公式観光情報でも「レユニオンのデザート」として紹介され、パン屋・スーパー・市場のどこでも売られている。
インド洋とカリブ海の親戚
モーリシャス、フランス領アンティル諸島にも同じ名前の菓子がある。植民地の島に共通していた材料でできている。
この菓子のいいところは、豪華でないところだと思う。バターと卵と砂糖は入るが、生クリームもチョコレートも使わない。主役は蒸したさつまいもで、それをどれだけおいしく食べるかという工夫の結果がこの形になっている。だから毎日食べても飽きない。
似た菓子がモーリシャスにもアンティル諸島にもある、というのは示唆的だ。さつまいもは新大陸原産の作物で、大航海時代以降に世界中の熱帯に広がった。砂糖はプランテーションの島ならどこにでもあった。この2つが同じ場所にそろえば、似た菓子が生まれる。ガトー・パタトは、砂糖の島の菓子だ。
レユニオンで作ると、そこにバニラが入る。バニラはこの島が世界に送り出した香りで、19世紀の人工受粉法の発見なしには、これほど身近な材料にはならなかった。素朴な芋の菓子に高価な香辛料が当たり前のように入っているのは、この島だからこその贅沢と言える。
焼き上がりの見た目は地味だ。表面は黒っぽく、ひびが入り、艶もない。ケーキ売り場で目を引くタイプの菓子ではない。だが切ってみると中はしっとり詰まっていて、芋の繊維とバニラの粒が見える。見た目より中身、という言い方がそのまま当てはまる。
島の菓子には、ほかにもガトー・ティ・ソン(とうもろこし粉)、ボンボン・ミエル(蜂蜜のドーナツ)、ボンボン・ラ・ルルート、ガトー・シュマン・ド・フェールなどがある。パン屋の棚にはこれらが一緒に並んでいるので、いくつか買って食べ比べるのが手っ取り早い。

モーリシャスやアンティル諸島の同名の菓子との関係は、材料と分布からの一般的な整理。配合(ラム酒の有無、小麦粉の量)は家庭・店によって幅がある。写真のキャッサバとカンバーはこの菓子の材料ではなく、島の芋類の例として掲載している。
この菓子の余話
「ガトー・シュマン・ド・フェール」=鉄道のケーキ
島の菓子には変わった名前のものがある。ガトー・シュマン・ド・フェール(gâteau chemin de fer)は「鉄道のケーキ」という意味で、赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が入っている。名前の由来については、層になった断面が線路に似ているから、かつて鉄道の駅で売られていたからなど、いくつかの説明が語られている。レユニオンにはかつて鉄道が走っていて、1930年ごろのサン・ドニ駅の絵はがきが残っている。いまその路線はない。
同じ名前の菓子が、海を越えていくつもある
ガトー・パタトはレユニオンだけの菓子ではない。モーリシャス、そして遠くフランス領アンティル諸島にも同じ名前の菓子がある。さつまいもは新大陸原産で大航海時代以降に熱帯へ広がった作物、砂糖はプランテーションの島ならどこにでもあったもの。この2つがそろう場所には、似た菓子ができる。地図の上では遠く離れた島々が、同じ名前の菓子でつながっている。
素朴な芋の菓子に、世界一高価な香辛料が入る
バニラは、サフランに次いで高価な香辛料だとよく言われる。そのバニラが、さつまいもの家庭菓子に当たり前のように入っている。これはこの島が19世紀に世界一のバニラ産地だったことの名残でもある。手の届く場所にバニラがあった島だから、素朴な菓子に惜しみなく使う習慣が残った。土産にバニラを買ったら、家でこの菓子を焼いてみるのがいちばん島らしい使い道かもしれない。
短い話
- 1茹でずに蒸す茹でると芋が水を吸って生地がゆるくなる。公式のレシピでも「蒸す」と指定されている。
- 2冷ましてから切る温かいうちに切ると崩れる。しっとりした密度は、冷めてから出てくる。
- 3コーヒーと合わせる島の公式情報ではブルボン・ポワントゥのコーヒーと合わせることがすすめられている。
- 4「ボンボン」の仲間たちボンボン・ミエル(蜂蜜のドーナツ)、ボンボン・ラ・ルルート(白っぽい焼き菓子)。パン屋の棚に一緒に並んでいる。
- 5ラム酒は好みで入れる家と入れない家がある。子ども向けには入れないことが多い。
- 6土産にはしにくいしっとりしているので日持ちがしない。現地で食べるもの。

食べに行く前に
注文のことば
パン屋、スーパーの菓子売り場、市場、食堂のデザート。どこでも見かける。切り売りしている店が多いので、いくつか買って食べ比べるのがいい。午後のおやつの時間に合わせると焼きたてに当たることがある。
値段と覚え書き
| 1切れ(パン屋・市場) | 2〜4€約350〜700円 |
| ホール(型ごと) | 12〜20€約2,100〜3,500円 |
| 食堂のデザート | 4〜7€約700〜1,200円 |
- ケーキよりプディングに近い密度。ふんわりはしていない
- バニラが入っているかどうかで香りがかなり違う
- ラム酒入りのものがある。子どもや飲めない人は確認を
- 冷やしても、常温でもおいしい。焼きたては崩れやすい
- ガトー・ティ・ソン、ボンボン・ミエルなど、隣の菓子も試す価値あり
- 日持ちしないので土産には向かない
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Office de Tourisme de l'Ouest「Le gâteau patate」 さつまいもを蒸す、バター・卵・砂糖・小麦粉・バニラ・ラム、170℃で焼く、コーヒーと合わせる
- Wikipédia(fr)「Gâteau patate」 材料、デザート/おやつ/つなぎとしての位置づけ、モーリシャス・アンティル諸島にも同名の菓子があること
写真の出典(9枚)
写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。
- 黒い丸皿に焼き上げたガトー・パタト(さつまいもの菓子)|A FREE KA SMILE 4 ALL/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 白い皿にのせた三角形のガトー・ティ・ソンと、2杯のお茶|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 透明トレーに入ったドーナツ型のボンボン・ミエル|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 割れ目の入った白っぽい丸い焼き菓子、ボンボン・ラ・ルルート|B.navez/CC BY-SA 3.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 皮つきのキャッサバ(マニョック)の根|Rémi Tournebize/CC BY-SA 3.0/2013年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 皮つきのカンバー(ダイジョ)の芋を切って中の紫色を見せたところ|Remi Tournebize/CC BY-SA 3.0/2013年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 皮つきのソンジュ(タロイモ)の芋が積まれた売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤い衣をまとい、断面にジャムとクリームの層が見えるガトー・シュマン・ド・フェール|Fabimaru/CC BY-SA 4.0/2023年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)


