黒く煮詰まったシヴェ・タングが鍋に入っている
レユニオン / フランス海外県

シヴェ・タング

Civet de tangue

2か月だけ食べられる、マダガスカルから来た獣

RÉUNION08
2月15日から、4月15日まで。

レユニオンの料理のなかで、いちばん季節が短いものがシヴェ・タング(civet de tangue)だ。食べられる期間が法律で決まっている。県知事の告示で狩猟期間が定められていて、2026年は2月15日から4月15日まで。この2か月を外すと、島にいても食べられない。

タング(tangue)はマダガスカル原産のテンレック(Tenrec ecaudatus)という動物で、ハリネズミに似た姿をしている。体重1〜2キロほど。夜行性で単独で行動し、冬眠する。もともと島にはいなかったが、食用として持ち込まれ、そのまま定着した。モーリシャス、コモロ、マヨット、セーシェルにも同じように運ばれている。

シヴェ(civet)は、赤ワインや強い煮詰めで仕上げる濃い煮込みのこと。カリが黄色く軽やかなのに対して、シヴェは色が黒っぽく、味が濃い。タングは香りが強い肉なので、この作り方が合うとされている。

下ごしらえが独特で、まず皮を焼いて毛を落とし、香辛料と酢やレモンでよく揉んでからでないと臭みが残る、と言われる。手間がかかるので、家庭でも「作れる人が作る」料理という位置づけになっている。

旅行者が食べる機会は限られる。狩猟期に高地の食堂やフェルム・オーベルジュのメニューに出ることがあるが、常にあるものではない。見かけたら、それは季節が来ているという合図だ。

テンレックの濃い煮込み20〜30€(約3,500〜5,300円)狩猟期は2月15日〜4月15日
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鍋の中身

黒く煮詰まったシヴェ・タングが鍋に入っている
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山あいの集落マルラの木造スナック山あいの集落の店

黒く煮詰まったシヴェ・タングが鍋に入っている(2011年撮影)

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黒く煮詰まった煮汁sauce de civetカリの黄色とはまったく違う。赤ワインや強い煮詰めで、色も味も濃くなる
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小さな骨つきの肉morceaux体重1〜2kgの動物なので、切り身は小さい。骨ごと煮る
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鍋のふちle bord煮詰まって鍋肌に色が残る。ここまで煮るのがシヴェ
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香辛料épicesにんにく、生姜、タイム、唐辛子。下ごしらえで肉によく揉み込む
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一口目

味

獣の香りと、煮詰めた甘み

最初にはっきりした獣の香りが来る。そのうしろに、煮詰まった煮汁の甘みと、にんにく・タイム・唐辛子の輪郭がある。カリのように誰でも食べやすい味ではなく、好き嫌いのはっきり分かれる方向の味。

食感

小さく、しっかりしている

体の小さな動物なので身も小さい。よく煮込んであっても、鶏や豚のようにほろほろにはならず、しっかりした繊維が残る。骨が細かいので、口の中で確かめながら食べることになる。

出し方

白飯と豆、そして辛味

皿の構成は他の煮込みと同じ。白飯、豆、炒めた葉物。味が濃いので、白飯の量が普段より多く感じられる。

高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場
高地ボワ・クールの、屋根だけの市場と赤土の広場(2016年撮影)
ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面を埋めるバナナ畑
ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面。タングは高地の森や畑のまわりにいる(2019年撮影)
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作り方

1毛を落とし、下処理する

皮を焼いて毛を落とし、内臓を外して、丁寧に洗う。ここを雑にすると、あとで何をしても匂いが残ると言われる。

この工程があるので、作れる人が限られる
真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台2
香辛料と酸で揉む

にんにく、生姜、唐辛子、タイム、そして酢やレモンを合わせて、肉によく揉み込んでしばらく置く。香りの強い肉を扱うときの基本の手順。

唐辛子は市場に小粒のものが山になっている
薬草の名前を書いた札を添えて乾燥ハーブを並べたティザヌールの露店3
乾いた薬草を足す

タイムをはじめ、島の乾燥ハーブを使う。市場のティザヌール(薬草売り)の露店には、名前の札を添えた小袋が並んでいる。

配合は作る人によって違う
4炒めて、煮詰める

油で肉を炒めて色をつけ、玉ねぎ・トマトを加えて、赤ワインなどを入れて煮詰める。カリのように水を足して伸ばさず、色が黒くなるまで詰めていく。

シヴェとカリの違いは、この煮詰め方
シラオへ登る国道5号沿いの段々畑5
山の食卓に出す

高地の食堂やフェルム・オーベルジュで、白飯・豆・ブレッドと一緒に出てくる。狩猟期のあいだだけのメニュー。

見かけたら季節が来ている合図
タング(テンレック)にんにく生姜玉ねぎトマトタイム唐辛子赤ワイン酢またはレモン油
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この一皿の来歴

18〜19世紀

食用として運ばれる

マダガスカル原産のテンレックが、食料としてインド洋の島々に持ち込まれる。レユニオンのほかモーリシャス、コモロ、マヨット、セーシェルにも渡った。

19〜20世紀

狩りの獲物になる

島に定着し、犬を使って巣穴を探す狩りが行われるようになる。カリ、サルミ、シヴェとして料理される。

20世紀後半

季節の料理として定着

狩猟の解禁と禁止が県知事の告示で定められ、限られた期間だけの料理という位置づけになる。

現在

期間は2か月

2026年の狩猟期は2月15日から4月15日まで。2月15日から3月11日までは幼獣と雌の捕獲が禁止されている。

近年

議論の対象にも

狩猟の是非をめぐって動物保護団体が異議を申し立てるなど、社会的な議論の対象にもなっている。

この島の食べものはほとんどが外から来ているが、動物そのものが持ち込まれて食材になった例は多くない。タングはその数少ないひとつだ。マダガスカルから食用として運ばれ、島の環境になじみ、いまでは狩りの対象として制度に組み込まれている。

テンレックは繁殖力が非常に強い動物で、飼育下では30匹前後の子を産んだ記録があるとされる。哺乳類のなかでも群を抜いた数だ。それだけ増えるからこそ、限られた期間の狩猟という形で扱われているとも言える。

「2月15日から4月15日まで」という期間は毎年決まっているわけではなく、県知事の告示で定められる。だから正確な日付はその年ごとに変わる。旅行の日程がこの時期に重なるなら、その年の告示を確認しておくと確実だ。

シヴェという調理法そのものは、フランスの料理用語から来ている。もとは赤ワインと血で仕上げるジビエの煮込みを指す言葉で、この島では「濃く煮詰めた煮込み」という意味で使われている。タングのほか、鴨や猪、鶏でもシヴェは作られる。

食べられる期間が短く、下ごしらえに手間がかかり、味の好みも分かれる。それでも島の料理の話をするとき、必ず名前が出てくる一皿だ。旅行者にとっては「食べられたら運がいい」種類の料理で、時期を外していたら、話として知っておくだけでも十分に面白い。

マファット圏谷の集落マルラの農地と家
マファット圏谷の集落マルラ。車の入らない高地の暮らしがある(2019年撮影)
高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場
高地の市場。山の食材はこうした場所に集まる(2016年撮影)

狩猟期間は県知事の告示で毎年定められる。本文の日付は2026年のもので、翌年以降は変わる。狩猟の是非については島の中でも議論がある。

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この一皿の余話

制度の話

食べられる期間が、法律で決まっている料理

タングの狩猟期間は県知事の告示で定められる。2026年は2月15日から4月15日までの2か月間だった。しかも2月15日から3月11日のあいだは、幼獣と雌を捕ってはいけないという条件がつく。ほかの島の料理はいつでも食べられるが、これだけは制度によって季節が区切られている。旅行の時期がずれれば、島にいても食べられない。

生きものの話

島にいなかった動物が、島の料理になった

タングはマダガスカル原産のテンレック(Tenrec ecaudatus)。体重1〜2キロで、テンレック科のなかでいちばん大きい。夜行性で単独行動、そして冬眠する。もともとレユニオンにはいなかったが、食料として持ち込まれ、そのまま野生化した。同じように運ばれた先はモーリシャス、コモロ、マヨット、セーシェル。インド洋の島々に、同じ理由で同じ動物がいる。

数の話

哺乳類のなかでも、とびぬけて子を産む

テンレックは非常に繁殖力が強く、飼育下では一度に30匹前後の子を産んだ記録があるとされる。哺乳類としては例外的な数だ。狩猟が制度として続いている背景には、この繁殖力もある。一方で、狩猟の是非をめぐっては動物保護団体が異議を申し立てるなど、島の中でも議論がある。

短い話

  • 1
    「シヴェ」はフランス料理の言葉もとは赤ワインで仕上げるジビエの煮込みのこと。島では「濃く煮詰めた煮込み」の意味で使う。鴨や猪、鶏のシヴェもある。
  • 2
    カリ・サルミ・シヴェ同じタングでも、黄色い煮込みならカリ、細かく刻んで炒めたものならサルミ、濃く煮詰めたものならシヴェ。
  • 3
    犬を使って探す夜行性で巣穴に潜るので、犬に探させるのが伝統的なやり方とされている。
  • 4
    下ごしらえが勝負皮を焼いて毛を落とし、香辛料と酸でよく揉む。ここが甘いと匂いが残ると言われる。
  • 5
    高地で出会いやすい平野の観光地より、高地の食堂やフェルム・オーベルジュのほうがメニューに載る確率が高い。
  • 6
    日付はその年ごとに確認狩猟期間は毎年の告示で決まる。時期を狙って行くなら、その年の日付を調べてから。
山あいの集落マルラの木造スナック
山あいの集落マルラの木造スナック。高地の食堂はこういう佇まいのことが多い(2019年撮影)
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食べに行く前に

注文のことば

Vous avez du civet tangue ?ヴ・ザヴェ・デュ・シヴェ・タング?/シヴェ・タングはありますか?
C'est la saison ?セ・ラ・セゾン?/いまが季節ですか?
C'est fort en goût ?セ・フォール・アン・グー?/味は強いですか?
Il faut réserver ?イル・フォ・レゼルヴェ?/予約が要りますか?
Je peux goûter une petite portion ?ジュ・プ・グテ・ユヌ・プティット・ポルシオン?/少しだけ試せますか?

狩猟期(例年2〜4月ごろ)に、高地の食堂やフェルム・オーベルジュのメニューに出ることがある。常設ではないので、あれば頼む、という料理。仕込みに手間がかかるため予約が要ることもある。

値段と覚え書き

食堂・オーベルジュの一皿20〜30€約3,500〜5,300円
カリ・タング(黄色い煮込み)18〜28€約3,100〜4,900円
高地オーベルジュのコース28〜40€約4,900〜7,000円
  • 狩猟期間は県知事の告示で毎年決まる。2026年は2月15日〜4月15日
  • 常設メニューではない。見かけたら季節が来ている合図
  • 味の好みが分かれる。獣の香りが強い
  • 身は小さく、細かい骨がある
  • 同じタングでもカリ・サルミ・シヴェで別料理
  • 高地の店のほうが出会いやすい

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。狩猟期間・営業時間・価格は変わるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(9枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。

  • トタン壁の台所で、薪の炎の上に並んだ3つの鍋|Deborahbataille/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 黒く煮詰まったシヴェ・タングが鍋に入っている|Thomasnalem/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 山あいの集落マルラの木造スナック|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面を埋めるバナナ畑|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 薬草の名前を書いた札を添えて乾燥ハーブを並べたティザヌールの露店|Nanie 974/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • シラオへ登る国道5号沿いの段々畑|MOSSOT/CC BY-SA 3.0/2007年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • マファット圏谷の集落マルラの農地と家|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)