じゃがいもと一緒に煮込まれたカリ・ブフ(牛肉)の鍋
レユニオン / フランス海外県

カリ・ブフ・モカ

Cari bœuf Moka

島の名前がついた牛が、いま消えかけている

RÉUNION19
峠の名前が「牛の鼻」。

レユニオンの地図を見ると、高地に「ネ・ド・ブフ(Nez de Bœuf/牛の鼻)」「コル・デ・ブフ(Col des Bœufs/牛の峠)」という地名がある。牛が島の暮らしにどれだけ深く関わっていたかが、地名にそのまま残っている。

その中心にいたのがブフ・モカ(bœuf Moka)だ。17世紀にマダガスカル、アジア、ヨーロッパから持ち込まれた牛が混ざり、18世紀にイエメンの牛が加わって生まれた、この島の在来種。中型で、肩にこぶがあり、角は三日月形に曲がる。毛色は淡い茶色が多いが、白から黒まで幅があり、まだらのものもいる。

17〜18世紀にはコーヒー栽培を支え、その後は製糖の時代に入って、有名な「牛車(シャレット・ブフ)」を引き、サトウキビを搾る動力にもなった。ラム酒のシャレットのラベルに描かれている荷車も、この文脈のものだ。

1980年代になると、リムーザンやブロンド・ダキテーヌといった輸入品種に置きかわり、モカは捨てられていった。保護に取り組む団体の活動があり、2016年に絶滅の危機にある地域在来種として公式に認定されている。

料理としては、ほかの肉と同じくカリになる。じゃがいもと一緒に煮込んだカリ・ブフは食堂の定番だ。ただし「ブフ・モカのカリ」として出している店は限られる。頭数が少ないからだ。

島の在来牛の煮込み一皿 14〜22€(約2,500〜3,900円)2016年に絶滅危惧の在来種と認定
1

鍋の中身

じゃがいもと一緒に煮込まれたカリ・ブフ(牛肉)の鍋
1234
白黒まだらのレユニオン在来牛ブフ・モカ白黒まだらのブフ・モカ

じゃがいもと一緒に煮込まれたカリ・ブフの鍋(2011年撮影)

1
牛肉le bœufぶつ切りを炒めてから煮る。硬い部位ほど時間をかけると柔らかくなる
2
じゃがいもpommes de terre一緒に煮込む。煮汁を吸って形が半分崩れるくらいがよいとされる
3
黄色い煮汁la sauceターメリックとタイムが中心。カリなので辛味は入れない
4
鍋la marmite厚手の大鍋。薪火で炊く店もある
2

一口目

味

ターメリックと牛の脂

カリなので黄色く、辛くない。ターメリックとタイムの香りが先に来て、牛の脂の甘みがあとから広がる。じゃがいもが煮汁を吸っているので、全体としてまろやかにまとまる。

食感

繊維がほどける

長く煮るので、肉は繊維に沿ってほぐれる。じゃがいもは形が半分崩れて、煮汁にとろみをつける。白飯にかけて食べるのにちょうどいい状態になる。

モカかどうか

書いていないことが多い

食堂のカリ・ブフに使われている肉が在来種のモカとは限らない。輸入牛やほかの品種のほうが多い。「bœuf Moka」と明記している店は限られる。

高原の牧草地で草を食む羊
高原の牧草地で草を食む羊。高地では牛と羊の放牧が行われている(2019年撮影)
高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場
高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場(2016年撮影)
3

作り方

真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台1
香辛料をそろえる

ターメリック、タイム、にんにく、生姜。市場の売り場でひととおりそろう。カリなので唐辛子は鍋に入れず、卓上のルガイユで足す。

辛味は各自で
2肉を炒める

ぶつ切りの牛肉を油で炒めて表面に色をつけ、玉ねぎ・にんにく・生姜を加える。そこへターメリックを入れて香りを立たせる。

炒めが甘いと香辛料が粉っぽく残る
3トマトとじゃがいもを入れる

トマトを加えて水分を出し、皮をむいたじゃがいもを入れる。蓋をして煮込む。

じゃがいもが煮汁にとろみをつける
41〜2時間煮る

肉が柔らかくなるまで弱火で煮る。途中でかき混ぜて、鍋底が焦げないようにする。

薪火なら火の距離で加減する
5白飯と豆を添える

白米と豆(グラン)、炒めた葉物(ブレッド)と一緒に出す。卓上のルガイユで辛さを足す。

皿の構成は他のカリと同じ
牛肉(骨つきまたはぶつ切り)じゃがいも玉ねぎにんにく生姜トマトターメリックタイム塩油
4

この牛の来歴

17世紀

三方から牛が来る

マダガスカル、アジア、ヨーロッパから牛がブルボン島に持ち込まれ、混ざり合う。

18世紀

イエメンの牛が加わる

さらにイエメンの牛が入り、いまのブフ・モカの姿になる。肩にこぶのある中型の牛。

17〜18世紀

コーヒーを支える

コーヒー栽培の時代、この牛が労働力になった。高地の地名「牛の鼻」「牛の峠」はこの時代の名残とされる。

19〜20世紀

砂糖と牛車の時代

製糖の時代に入り、牛車を引き、サトウキビを搾る動力にもなった。

1980年代→2016年

消えかけ、認定される

リムーザンなど輸入品種に置きかわって激減。保護活動を経て、2016年に絶滅の危機にある地域在来種として公式に認定された。

地名は残るが、実物は消える。レユニオンの高地には「ネ・ド・ブフ(牛の鼻)」「コル・デ・ブフ(牛の峠)」という地名がある。かつてこの島の高地を牛が行き来していた証拠だ。その牛がいま、絶滅の危機にある。

ブフ・モカは17世紀にマダガスカル・アジア・ヨーロッパから来た牛が混ざり、18世紀にイエメンの牛が加わって生まれた。肩にこぶがあるのは、そこにゼブー(コブウシ)の血が入っているからだ。中型で、暑さと粗い草に強く、島の環境に合っていた。

働きぶりも記録されている。17〜18世紀のコーヒーの時代には運搬と耕作を支え、19世紀以降の製糖の時代には牛車を引き、サトウキビを搾る動力にもなった。ラム酒シャレットのラベルに描かれている、牛が引く荷車。あれはこの島の200年の労働の絵でもある。

1980年代に、事情が変わる。肉の量を求めてリムーザンやブロンド・ダキテーヌといった輸入品種への切り替えが進み、モカは捨てられていった。働く必要がなくなり、肉としても効率が悪い牛は、行き場がなくなる。保護に取り組む団体の活動を経て、2016年に絶滅の危機にある地域在来種として公式に認定された。

旅行者が「ブフ・モカのカリ」に出会う確率は高くない。頭数が少ないからだ。カリ・ブフ自体は食堂のどこにでもあるが、その肉が在来種とは限らない。もし「bœuf Moka」と明記した店に当たったら、それは珍しいことだと思っていい。

ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面を埋めるバナナ畑
ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面。高地は放牧の場でもある(2019年撮影)
シラオへ登る国道5号沿いの段々畑
シラオへ登る国道5号沿いの段々畑(2019年撮影)

品種の成り立ち(17世紀の三方からの導入、18世紀のイエメン牛)、地名との関係、1980年代の減少、2016年の在来種認定はフランス語版の解説による。食堂のカリ・ブフに使われている肉が在来種のモカとは限らない。

5

この牛の余話

地名の話

「牛の鼻」「牛の峠」という地名が残っている

レユニオンの高地には Nez de Bœuf(牛の鼻)、Col des Bœufs(牛の峠)という地名がある。どちらも登山やドライブで通る有名な場所だ。名前の由来はこの島で牛が果たしていた役割にあるとされている。コーヒーの時代も砂糖の時代も、山と海のあいだを物を運んでいたのは牛だった。いま地名だけが残り、その牛自体は絶滅の危機にある。地図を見ながらこの話を思い出すと、島の見え方が少し変わる。

血統の話

三つの大陸とイエメンが混ざった牛

ブフ・モカは、17世紀にマダガスカル・アジア・ヨーロッパから持ち込まれた牛が混ざり、18世紀にイエメンの牛が加わって生まれた在来種だ。肩にこぶがあるのはゼブー(コブウシ)の血が入っているからで、角は三日月形に曲がる。毛色は淡い茶色が多いが、白から黒までまだらのものもいる。人の移動の歴史がそのまま牛の姿になっている点で、この島の料理とまったく同じ成り立ちをしている。

いまの話

1980年代に捨てられ、2016年に認定された

1980年代、肉の量を求めてリムーザンやブロンド・ダキテーヌといった輸入品種への切り替えが進み、モカは急速に減った。働く必要がなくなり、肉としても効率が悪い牛は行き場を失う。その後、保護に取り組む団体の活動があり、2016年に絶滅の危機にある地域在来種として公式に認定された。2017年には農業の生物多様性に関する国内表彰も受けている。「食べることで残す」という考え方が、この牛には当てはまる。

短い話

  • 1
    カリは辛くないターメリックとタイムが中心。辛味は卓上のルガイユで足す。
  • 2
    じゃがいもが入る煮汁を吸ってとろみをつける。白飯にかけて食べる。
  • 3
    「bœuf Moka」の表示を見るカリ・ブフの肉が在来種とは限らない。明記している店は限られる。
  • 4
    肩のこぶが特徴ゼブー(コブウシ)の血。角は三日月形に曲がる。
  • 5
    シャレットのラベルの牛車ラム酒のラベルに描かれた荷車を引く牛は、この労働の歴史の絵。
  • 6
    西部の乾いた地域に多いサン・ポールのサバンナなど、島の西側にまとまって残っている。
収穫したサトウキビを積んだ色鮮やかなトレーラーの列
収穫したサトウキビを積んだトレーラーの列。かつてここを牛車が走っていた(2019年撮影)
6

食べに行く前に

注文のことば

Un cari bœuf, s'il vous plaît.アン・カリ・ブフ、シル・ヴ・プレ/カリ・ブフを1つください
C'est du bœuf Moka ?セ・デュ・ブフ・モカ?/ブフ・モカですか?
C'est du bœuf péi ?セ・デュ・ブフ・ペイ?/島の牛ですか?
Avec du riz et des grains.アヴェック・デュ・リ・エ・デ・グラン/ご飯と豆を添えて
Ce n'est pas piquant ?ス・ネ・パ・ピカン?/辛くないですね?

カリ・ブフはクレオール料理店の定番。ただし在来種のブフ・モカを使っている店は限られるので、メニューに「bœuf Moka」と書いてあるかを見る。高地や西部の店のほうが出会いやすい。

値段と覚え書き

カリ・ブフ(一皿)14〜22€約2,500〜3,900円
ブフ・モカ明記の店20〜30€約3,500〜5,300円
牛肉(精肉店・1kg)15〜25€約2,600〜4,400円
  • カリなので辛くない。辛味は卓上のルガイユで
  • じゃがいもが一緒に煮込まれているのが定番
  • 「bœuf Moka」の表示がなければ在来種とは限らない
  • 在来種は2016年に絶滅危惧の地域品種として認定された
  • 高地の地名「Nez de Bœuf」「Col des Bœufs」は牛に由来するとされる
  • 白飯・豆・ブレッドが一緒についてくるのが標準

値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(11枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA/CC0)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。明るさ・彩度・コントラストを調整した写真には、その旨を併記しています。

  • グランド・フェルムの牧草地に立つ牛|B.navez/CC BY-SA 3.0/2008年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • じゃがいもと一緒に煮込まれたカリ・ブフ(牛肉)の鍋|Thomasnalem/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 白黒まだらのレユニオン在来牛ブフ・モカ|Fleur-de-sucre/CC BY-SA 4.0/2014年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 高原の牧草地で草を食む羊|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 高地ボワ・クールの屋根だけの市場と赤土の広場|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 真っ赤な小粒のピマン(唐辛子)が山盛りになった売り台|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • ブラ・ド・ラ・プレーヌ渓谷の斜面を埋めるバナナ畑|Rémih/CC BY-SA 4.0/2026年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • シラオへ登る国道5号沿いの段々畑|MOSSOT/CC BY-SA 3.0/2007年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
  • 収穫したサトウキビを積んだ色鮮やかなトレーラーの列|SIBONX/CC BY-SA 4.0/2019年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)