
サルシーヴ
Sarcive
広東のチャーシューが、島のつまみになった
路上のスナックのガラスケースに、赤みがかった豚肉が細長く切られて並んでいる。サルシーヴ(sarcive/sar civ)だ。中国のチャーシュー(叉焼)が元になった料理で、蜂蜜と醤油の甘辛い漬け汁に長く漬け込んでから焼く。
食べ方は決まっている。数センチの細切れが発泡トレーに入っていて、つまようじで刺して食べる。アペリティフのつまみか、小腹がすいたときのつなぎ。ブションと並んで、島のスナックの二大看板と言っていい。
特徴はあの色だ。ピンクがかった赤。これは漬け汁が肉の中まで入った結果で、地元の記事によれば「よく色の出たサルシーヴを作るには、漬け汁がすべて」とされる。砂糖、蜂蜜、醤油、アニゼット(アニス酒)、そして各種の調味料。
こつは、漬ける前に肉を切っておくこと。切った肉と漬け汁を交互に重ねると、味と色が奥まで入る。そして漬ける時間が長いほど、あの色が濃くなる。
豚が基本だが、鶏のサルシーヴもある。皿にしてフライドポテトとサラダを添えれば昼の一皿になり、そのままつまめばアペリティフになる。
皿の中身

屋台の看板に並ぶ「グリヤード・ブション・ブロシェット」サルシーヴにフライドポテトとサラダを添えた皿と、ビールのグラス(2011年撮影)
一口目
味
甘さが先、そのあと醤油
最初に来るのは蜂蜜と砂糖の甘さ。そのうしろから醤油の塩気が立ち上がり、アニゼットの八角に似た香りがかすかに残る。中国のチャーシューより甘さがはっきりしていると感じる人が多い。
食感
外は焼き固まり、中はしっとり
表面は焼いて締まっていて、噛むとわずかに歯ごたえがある。中はしっとりして繊維がほどける。冷めてもかたくなりにくいので、ガラスケースに並んでいるものでも十分おいしい。
食べ方
つまようじで一切れずつ
木のつまようじを刺して口へ。皿にせず、トレーのまま歩きながら食べる人も多い。1人前という決まりはなく、量り売りか、盛りきりで買う。


作り方
1バラ肉や肩肉を使う。脂と赤身が層になっている部位のほうが、焼いたときにしっとりする。市場の精肉売り場で塊のまま買う。
鶏で作ることもある漬ける前に肉を切っておくのがこつとされる。切った肉と漬け汁を交互に重ねると、味も色も奥まで入る。
塊のまま漬けると表面だけ色がつく砂糖、蜂蜜、醤油、アニゼット(アニス酒)、そして調味料。この配合が色と味を決める。
「よく色の出たサルシーヴは、漬け汁がすべて」漬ける時間が長いほど、あの特徴的な色が濃くなる。数時間から一晩。急がない。
色は着色料ではなく漬け込みの結果オーブンや直火で焼き、数センチの細切れにする。ガラスケースに並べて、注文されたぶんをトレーに入れる。
つまようじを添えて渡すこの一皿の来歴
広東から人が来る
契約労働者や商人として中国南部から人が渡り、料理の技術も一緒に入る。ブションと同じ流れ。
ブティック・シノワの時代
中国系の雑貨店が島じゅうにでき、店先の軽食としてチャーシュー系の焼き豚が売られるようになる。
「サルシーヴ」になる
叉焼(チャーシュー)の音が島の言葉に取り込まれ、sarcive/sar civ という綴りで定着する。
スナックの二枚看板
ブションと並んで、路上のスナックやカミオン・バーの定番になっている。
皿にもなる
フライドポテトとサラダを添えれば昼の一皿。つまめばアペリティフ。場面を選ばない。
レユニオンの中国系の食べものは、名前を聞いただけでは出どころが分からないものが多い。ブションはフランス語で「栓」、サルシーヴは一見どこの言葉か分からない。だが sarcive を声に出すと、叉焼(チャーシュー)の音が残っているのが分かる。料理の名前が、移民の経路をそのまま記録している。
同じ広東由来でも、ブションは蒸して、サルシーヴは漬けて焼く。技法が違うぶん、島に入ってからの変わり方も違った。ブションはコンバヴァの皮が入って島の香りをまとったが、サルシーヴは甘さの方向に振れた。砂糖の島だから、というのは出来すぎた説明かもしれないが、実際に甘い。
あのピンクがかった色は、着色料ではなく漬け込みの結果だとされている。地元の記事では「よく色の出たサルシーヴを作るには、漬け汁がすべて」と書かれ、切ってから漬けること、肉と漬け汁を層にして重ねること、長く漬けることが挙げられている。手間の量が色に出るということだ。
アニゼットが入るのが面白い。アニス風味の酒で、これが八角に似た香りを与える。中国のチャーシューでは五香粉が使われるが、この島ではフランス側の食材で似た方向の香りを作っている。持ち込まれた料理が、現地にあるもので再現される典型例だ。
旅行者にとっては、いちばん手を出しやすい肉料理かもしれない。量り売りで少しだけ買えて、つまようじで食べられて、冷めてもおいしい。カリを一皿食べるほどおなかが空いていないとき、これがちょうどいい。
叉焼(チャーシュー)から sarcive という語形になったという説明は、広く語られている整理をもとにしている。漬け汁の配合は店・家庭によって幅がある。
この一皿の余話
「サルシーヴ」は「叉焼(チャーシュー)」の音が残ったもの
sarcive、あるいは sar civ。フランス語にもクレオール語にも由来のなさそうな綴りだが、声に出すと元が見えてくる。広東語の叉焼(チャーシュー)の音が、島の言葉に取り込まれて定着したものだとされている。ブションが「栓」というフランス語の名前をもらったのに対して、サルシーヴは中国語の音のまま残った。同じ広東由来の2品で、名前のたどった道が正反対になっている。
あのピンクは、着色ではなく漬け込みの時間
サルシーヴの特徴はピンクがかった赤い色だ。これは着色料ではなく、漬け汁が肉の中まで入った結果だとされている。地元の記事には「よく色の出たサルシーヴを作るには、漬け汁がすべて」とある。こつは3つ。漬ける前に肉を切っておくこと。切った肉と漬け汁を交互に層にして重ねること。そして長く漬けること。「漬ける時間が長いほど、特徴的な色が出る」。色の濃さが、そのまま手間の量になっている。
五香粉の代わりに、アニス酒が入る
中国のチャーシューには八角を含む五香粉が使われる。この島のサルシーヴの漬け汁には、砂糖・蜂蜜・醤油に加えてアニゼット(anisette/アニス風味の酒)が入る。八角に近い香りを、フランス側の食材で作っているわけだ。持ち込まれた料理が、現地で手に入るもので置きかえられていく。ヴァンダイユのワインが酢になったのと同じ種類の置きかえが、ここでも起きている。
短い話
- 1綴りは sarcive / sar civ店によって書き方が違う。どちらも同じもの。
- 2つまようじで食べる木のつまようじを刺して一切れずつ。トレーのまま歩きながらでも。
- 3豚以外に鶏もあるsarcive de poulet と書いてあれば鶏。豚を避けたい場合はこちら。
- 4冷めてもおいしいガラスケースに並んでいるものでも十分。ブションと違ってここは強い。
- 5量り売りが多い100g単位で買える。少しだけ試したいときに向く。
- 6甘い中国のチャーシューより甘さがはっきりしている、と感じる人が多い。

食べに行く前に
注文のことば
路上のスナック、カミオン・バー、中国系の店、スーパーの惣菜売り場。ガラスケースに並んでいるので見ればわかる。量り売りなので少しだけ買える。
値段と覚え書き
| 100g(スナック・惣菜) | 3〜6€約500〜1,100円 |
| サルシーヴ+フリット+サラダ | 9〜14€約1,600〜2,500円 |
| アペリティフの盛り合わせ | 6〜12€約1,000〜2,100円 |
- 綴りは sarcive / sar civ。どちらも同じ
- 赤い色は漬け込みの結果。着色料ではないとされる
- 甘みが強い。中国のチャーシューより甘い
- つまようじで食べる。皿にしなくてもよい
- 鶏のサルシーヴもある。豚を避けたい場合は確認を
- 冷めてもおいしいので、持ち帰りに向く
値段は2026年9月時点の目安。1€=約175円で換算。営業時間・価格は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Wikipédia(fr)「Sarcive」 中国の char siu 由来、豚または鶏と蜂蜜、アペリティフやつなぎとしてつまようじで食べること、発泡トレーに数センチの細切れで入ること
- Journal.re「Le secret des sarcives bien roses」 漬け汁(砂糖・蜂蜜・醤油・アニゼット)、切ってから漬ける・層に重ねる・長く漬けるという色の出し方
写真の出典(11枚)
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- 「SNACK-BAR LE SAINT PAULOIS 974」の看板を出した路上のスナック|mwanasimba from La Réunion/CC BY-SA 2.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サルシーヴにフライドポテトとサラダを添えた皿と、ビールのグラス|Matthieu Sontag / Mirgolth/CC BY-SA 3.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 「SNACK SUR LE COCOTIER」と書かれた屋台と、グリル・ブション・ブロシェットを並べた手書きの品書き|mwanasimba/CC BY-SA 2.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 黄色いシトロエンHYを改造した移動販売のカミオン・バー|Audreyrich04/CC BY-SA 3.0/2012年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- パラソルと椅子を出したカミオン・バーの正面|Audreyrich04/CC BY-SA 3.0/2012年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤く染まった塩漬け豚バラ(ブカネ)が山盛りになった売り場|David Monniaux/CC BY-SA 3.0/2005年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サン・ドニの小市場(プティ・マルシェ)の入口|Olaf2/CC BY-SA 4.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- パラソルが並び買い物客であふれるサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- サン・ピエールの屋根付き市場の外観|Thierry Caro/CC BY-SA 4.0/2011年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 赤いテントの下に花や野菜が並ぶサン・ピエールの露天市|Guallendra/CC0 1.0/2024年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)
- 黄色い日よけを張ったサン・ポールの海沿いレストラン|mwanasimba from La Réunion/CC BY-SA 2.0/2009年撮影/明るさ・彩度・コントラストを調整(原典)


