世界の料理図鑑 台湾
肉圓
肉圓 バーワン Ba-wan / Taiwanese Meatball
ぷるぷるの半透明の皮を割ると、中から甘辛い豚肉と筍。日本人がいちばん驚く食感。
見た目が異様です。半透明で、ぷるぷるしていて、皿の上で揺れている。中に何かが透けている。
台湾人に「いちばん好きな台湾料理は」と聞いたアンケートで一位になったこともある一品ですが、日本人には好き嫌いがはっきり分かれます。それでも一度は食べておく価値がある。
そしてこの料理には、水害から生まれたという出自があります。
- 国・地域
- 台湾全土。発祥は彰化県北斗鎮。彰化・新竹・台南で作り方が違う
- 分類
- 点心・粉もの
- 相場
- NT$50〜70(約235〜330円)
- 主な材料
- サツマイモ粉・米粉・片栗粉の皮、豚肉、筍、椎茸、醬油膏・甜辣醬
- 辛さ
- 辛くない。タレは甘い
- 食べる場所
- 専門店・夜市の屋台
- ベスト時間
- 昼から夜。1個で軽食になる
- 一人前
- 1〜2個。1個でかなり満腹感がある
- 支払い
- 現金のみの店がほとんど
- 道具
- ハサミや串を渡されたら、それで切って食べる
01一口目に来るもの
箸を入れると、皮がぷるんと逃げる。切れずに、押されて形が変わる。この時点で日本の食べものの記憶がまったく役に立たなくなります。
口に入れると、皮はほとんど味がない。ぬめりと弾力だけがある。わらび餅を無糖にしたような、あるいは春雨を厚くしたような感触。
噛み進めると中の餡に届きます。ここで急に味が来る。甘辛く煮た豚肉と、しゃきしゃきした筍。皮の無味と餡の濃さの落差が、この料理の設計です。
上からかかった赤白のタレが、全体をつないでいる。皮・餡・タレの三つが、それぞれ別の役目を持っている。

02味と食感
皮はサツマイモ粉と米粉、片栗粉の配合。店ごとに比率が違い、それが弾力の差になります。透明度が高いほど澱粉の比率が高く、弾力が強い。
調理法は大きく二つ。低温の油で温める「油炸」と、蒸す「清蒸」。彰化式は油、新竹や台南は蒸しが多い。油のほうは表面がわずかに膜を張り、噛んだときの抵抗がひとつ増えます。
餡は豚の赤身と脂身、それに筍。筍のしゃきしゃきが入ることで、ぬめりだけの単調さから抜け出します。椎茸や煮玉子が入る店もある。
タレは二色かかることが多い。白いのはにんにくベース、赤いのは甘辛の味噌ダレ。両方かかっていたら混ぜずに、交互に当たるように食べたほうが飽きません。


町ごとに別の料理になる
肉圓は台湾でもっとも地域差の大きい料理のひとつです。
彰化式は小ぶりで、低温の油で温める。皮に弾力があり、外側にわずかな膜ができる。これが最も広く知られた形。
新竹式は蒸し。皮が薄く柔らかく、透明度が高い。餡に干し椎茸と豚肉が入り、香りが上品。
台南式は小さくて甘い。タレの砂糖が強く、菓子のような印象すらあります。
屏東・北部の一部ではさらに大きく、丼に入って出てくる店もある。「肉圓を食べた」と言っても、どこで食べたかで話が噛み合わないのが台湾です。



第 二 章
1898年、北斗の水害から生まれた
蒸し式の肉圓。こちらは皮がより柔らかく、透明度が高い
03食べ方の作法
箸ではうまく切れません。店では小さなハサミや串を渡されることがあります。渡されたらそれを使ってください。
切り方にコツがあります。真ん中から割るのではなく、端から少しずつ切って餡と皮を一緒に取る。中央から割ると餡が飛び出して皮だけが残ります。
食べ終わったあと、皿にタレが残ります。ここに無料のスープを注いでもらえる店がある——これを「加湯(ジャータン)」といって、タレをスープにして飲む。地元の人はほぼ全員やります。
一緒に頼むなら貢丸湯(肉団子スープ)か四神湯。肉圓は1個で意外に重いので、2個目を頼む前に少し待ったほうがいい。


皿に残ったタレにスープを注ぐ。これを知らないと、半分損をする。彰化の食堂にて
04注文のしかた
「肉圓(バーワン)」。台湾語読みです。北京語の「ロウユエン」でも通じますが、屋台ではバーワンのほうが早い。
個数を指で示せば足ります。「一個(イーガ)」「兩個(リャンガ)」。
パクチーが苦手なら「不要香菜(ブーヤオ シャンツァイ)」。
タレの量を減らしたいなら「醬少一點(ジャン シャオイーディエン)」。ただし店の標準量が正解なので、初回はそのまま食べたほうがいい。
スープをもらうときは、皿を差し出して「加湯(ジャータン)」。
05どこで食べる
本場は彰化県です。彰化市内には肉圓の専門店が何十軒もあり、それぞれ皮の配合が違う。台湾人が「肉圓を食べに彰化へ行く」と言うのは冗談ではありません。
台北なら夜市の屋台か、専門の小吃店。士林・寧夏・饒河街あたりに必ず出ています。
九份の基山街でも売っています。屋台で買って立ったまま食べる形。ただしタレがこぼれるので、歩きながらは無理です。



06歴史と背景
発祥は彰化県北斗鎮とされ、生まれたのは1800年代後半です。
最も広く語られているのは、1898年に北斗一帯が大洪水に見舞われたとき、災害の救援食として作られたという話。米が足りないなか、サツマイモの澱粉を練って皮にし、わずかな肉を包んで腹を満たした。
つまり肉圓もまた、足りないものから生まれた料理です。魯肉飯が肉屋の余りから、蚵仔煎が戦場の間に合わせから生まれたのと同じ構造がここにもある。
それが百年以上たって、台湾人が「いちばん好きな料理」に選ぶものになった。台湾の食文化は、この転換の連続でできています。


07似ている料理
日本のわらび餅は、皮の食感だけを取り出せば近い。ただしあちらは甘味、こちらは塩気の主食です。
中国の水晶餃子(蒸し餃子)は澄粉の透ける皮を使いますが、肉圓ほど弾力はない。
ベトナムのバインボッロックはタピオカ粉の透明な皮にエビと豚を包んだもの。肉圓にもっとも近い外国料理で、食感はほぼ同じ方向です。
台湾国内では碗粿(ワーグイ)が近い位置にいます。米を蒸し固めた器状の主食で、上に肉そぼろがのる。
08豆知識
・台湾人でも肉圓が苦手な人はいます。あのぬめりが受けつけないという声は現地でも普通にある。嫌いでも恥ずかしくありません。
・「加湯」の文化を知らないと、皿にタレを残したまま店を出ることになります。店員に皿を差し出せば察してくれるので、遠慮せずに。
・冷めると皮が硬くなり、まったく別の食感になります。持ち帰りは不向き。
・「圓」は円満の意味を持つ縁起字。芋圓・湯圓・魚圓と同じ系列の名づけです。







