コルドン・ブルー

世界の料理図鑑 スイス

コルドン・ブルー

Cordon bleu コルドン・ブルー Cordon Bleu

仔牛か豚のカツの中に、ハムとチーズ。ナイフを入れた瞬間に、チーズが流れ出す。

皿の上に、大きな一枚のカツ。見た目は日本のトンカツと変わりません。

ナイフを入れると、断面から溶けたチーズが流れ出す。中にハムとチーズが挟まっている。

名前はフランス語で「青いリボン」。料理名としては、この国でいちばん優雅な響きを持っています。

国・地域
スイス発祥とされる。オーストリア・ドイツにも広く
分類
揚げもの(カツレツ)
相場
CHF 34〜44(約6,800〜8,800円)
主な材料
仔牛または豚のもも肉、ハム、チーズ(エメンタール等)、パン粉、バター
辛さ
辛くない
食べる場所
町のレストラン・山小屋レストランの両方
ベスト時間
夜。または山を歩いた後の遅い昼
一人前
皿からはみ出す大きさ。かなり重い
付け合わせ
フライドポテトかロシュティ、そしてサラダ
注意
切るとチーズが流れるので、熱いうちに

01一口目に来るもの

ナイフを入れると、チーズが糸を引いて流れ出します。この瞬間のためにこの料理がある、と言っていい。

一口目は、まず衣のかりっとした音。バターで揚げ焼きにするので、パン粉が金色に色づいて香ばしい。

その下から、肉とハムとチーズの三層が同時に来る。肉は薄く叩かれているので、噛みごたえより「まとまり」として感じられる。

ハムの塩気とチーズの脂が混ざって、肉の味を押し上げる。単体では地味な材料が、三つ重なると別のものになる——この料理の設計はそこにあります。

02味と食感

肉は仔牛(Kalb)が正統ですが、スイスでは豚(Schwein)や鶏(Poulet)を使う店も多い。値段が下がるぶん、家庭的な料理になります。

肉を薄く叩いて広げ、半分にハムとチーズを載せて折りたたむか、二枚の肉で挟む。縁をしっかり閉じないと揚げている途中でチーズが逃げます。

チーズはエメンタールやグリュイエール。溶けたときに糸を引くかどうかが選定の基準です。

衣は小麦粉→卵→パン粉。フライパンにバターを多めに引いて揚げ焼きにするのがスイス式で、油の鍋で泳がせる日本のトンカツとは食感が違う。表面がしっとりして、パン粉が立ちすぎません。

コルドン・ブルー
フライドポテトと米を添えた一皿。断面にハムとチーズ(ギリシャ・コス島で撮影)

なぜ「青いリボン」なのか

コルドン・ブルー(cordon bleu)はフランス語で「青いリボン」。もとは18世紀フランスの騎士団「聖霊騎士団」の勲章の綬(リボン)の色でした。

この騎士団の宴席が豪華だったことから、「優れた料理人」を指す言葉に転じます。パリの料理学校の名前としても有名になった。

では、なぜハムとチーズを挟んだカツがこの名で呼ばれるのか。これははっきりしていません。

有力なのは、スイスのブリークかヴァレー地方のレストランで1940年代ごろに生まれ、「一流の料理」という意味を込めてこの名がつけられたという説。料理そのものは新しく、伝統料理ではありません。

コルドン・ブルー
ビュッフェの保温トレーに並ぶ魚のコルドン・ブルー(インド・西ベンガル州で撮影)
コルドン・ブルー
フライドポテトとコケモモのジャムを添えた一皿。上にレモンを載せて出す
コルドン・ブルー
厚みのあるチキンのコルドン・ブルー(インドネシア・ジョグジャカルタで撮影)
コルドン・ブルー

第 二 章

1940年代に生まれた、新しい「伝統料理」

コイの切り身で作ったコルドン・ブルーとポテトサラダ(ドイツの田舎食堂で撮影)

03食べ方と付け合わせ

熱いうちに切ります。冷めるとチーズが固まって、流れ出す瞬間を見逃す。皿が来たらすぐナイフを入れる。

付け合わせはフライドポテト(Pommes frites)が最も一般的。ロシュティを選べる店もあります。

レモンが添えられていたら絞る。揚げものと乳製品という重い組み合わせに、酸が要ります。

サラダは必須です。これだけで食べきると後半が苦しい。

飲みものはビールか、辛口の白ワイン。

コルドン・ブルー
肉を使わない代替肉(クォーン)で作ったコルドン・ブルー。市販品
コルドン・ブルー
サラダを添えて。脂の重さを野菜で切る

ナイフを入れる音と、チーズが流れる速度。この料理の見どころは最初の三秒にある。コルドン・ブルー

04注文のしかた

「Cordon bleu(コルドン・ブルー)」。ドイツ語圏でもフランス語のまま通じます。

肉の種類を確認しておくといい。Kalb(仔牛)が高く、Schwein(豚)やPoulet(鶏)が安い。メニューに書いていなければ聞く。

付け合わせが選べる店では「Pommes frites」か「Rösti」。

量が多いので、前菜は控えめに。二人で分ける人もいます。

山小屋では巨大なサイズで出てくることがあります。写真を撮る価値のある大きさ。

肉読み値段の目安特徴
Kalb(仔牛)カルプCHF 40〜48正統。柔らかい
Schwein(豚)シュヴァインCHF 34〜40最も一般的
Poulet(鶏)プーレCHF 28〜34あっさり。安い
山小屋の特大—CHF 36〜44皿からはみ出す
コルドン・ブルーまわりの相場(2026年8月時点の目安)価格
コルドン・ブルー(豚)CHF 34〜44/約6,800〜8,800円
同(仔牛)CHF 40〜48/約8,000〜9,600円
フライドポテト(付け合わせ)込みの場合が多い
グリーンサラダCHF 8〜12/約1,600〜2,400円
ビール(0.5L)CHF 7〜10/約1,400〜2,000円

05どこで食べる

スイス中のレストランにあります。フォンデュやラクレットが苦手な人の避難先としても機能する一皿で、チーズ料理が続いた旅程の途中に挟むとちょうどいい。

ツェルマットでは町なかのレストランでも山の上のレストランでも出しています。山小屋のコルドン・ブルーは異様に大きいことがあり、それ自体が名物になっている店もある。

値段は肉の種類次第で幅があります。豚ならCHF 34、仔牛ならCHF 48。

スーパーには冷凍のコルドン・ブルーが売っています。CHF 6前後で2枚入り。宿にオーブンがあるなら現実的な選択肢です。

コルドン・ブルー
米国の冷凍食品のチキン・コルドン・ブルー。焼いて半分に切るとハムとチーズ
コルドン・ブルー
米国の冷凍食品のチキン・コルドン・ブルー。アルミ箔に並べた焼く前の状態
コルドン・ブルー
焼き上がった冷凍食品のチキン・コルドン・ブルー(米国の市販品)

06歴史と背景

料理としてのコルドン・ブルーは、1940年代のスイスで生まれたとする説が最も広く語られています。ブリーク(ヴァレー州)のレストランが発祥とされることが多い。

背景には、ウィーン風カツレツ(ヴィーナー・シュニッツェル)の存在があります。19世紀からアルプス圏に広まっていたこの薄いカツに、ハムとチーズを挟むという一手を加えたのがコルドン・ブルーです。

つまりこれは既存の料理への「足し算」で生まれた。この図鑑に載っているスイス料理のほとんどが「引き算」(あるものだけで作る)から生まれたのとは対照的です。

アメリカでは1960年代に鶏肉版が広まり、いまや世界中で「チキン・コルドン・ブルー」として知られています。スイス発の料理が形を変えて世界に出た例——台湾のタピオカミルクティーと同じ道筋をたどっている。

コルドン・ブルー
レストランの卓。この料理は町でも山でも食べられる
コルドン・ブルー
クロケットを添え、ケチャップとマヨネーズをかけた一皿。断面にハムとチーズ

07似ている料理

オーストリアのヴィーナー・シュニッツェルは仔牛の薄いカツ。ハムもチーズも入りません。コルドン・ブルーの直接の親にあたります。

日本のミルフィーユカツやチーズインカツは発想が近い。ただしパン粉が粗く、揚げ方も違うので食感は別物。

フランスのクロックムッシュは、ハムとチーズをパンで挟んで焼くもの。「ハム+チーズを何かで包む」という型は西欧に広く見られます。

アメリカのチキン・コルドン・ブルーは鶏胸肉を巻いてオーブンで焼くことが多く、揚げないバージョンも一般的です。

08豆知識

・スイスのスーパーでは冷凍コルドン・ブルーが定番商品です。家庭でよく食べられる、日常の料理でもある。

・縁をしっかり閉じないと揚げている途中でチーズが漏れます。漏れたものは失敗作とされ、店では出しません。

・チーズが流れ出さない「しっかり閉じすぎた」ものも、スイス人には物足りない。ちょうどよく流れるのが良い仕事。

・「Cordon bleu」は料理学校の名前としても有名ですが、この料理とは直接の関係はありません。どちらも同じ語源から別々に名づけられたものです。

為替レート:1スイスフラン(CHF)=約200円で換算しています(2026年8月時点)。価格は変動します。現地で必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点のツェルマット周辺の相場の目安です。