世界の料理図鑑 スイス
ロシュティ
Rösti レシュティ Rösti
かりっと音がするほど焼き締められ、中はほくほく。上に目玉焼きをのせれば、それだけで一食。
スイスの国民食は何かと聞かれたら、多くのスイス人がこれを挙げます。じゃがいもを粗く削って、フライパンで焼き固めただけの料理。
それだけのものが、国を二つに分ける言葉の由来にまでなっている。
ツェルマットの店では、たいてい肉料理の付け合わせとして出てきます。ただし単品で頼めば、これだけで完全に一食になります。
- 国・地域
- スイス全土。発祥はベルン州とフリブール州の一部
- 分類
- じゃがいも料理
- 相場
- 単品 CHF 19〜26(約3,800〜5,200円)。付け合わせなら CHF 8前後
- 主な材料
- じゃがいも(前日に茹でて冷やしたもの)、バターまたはラード、塩
- 辛さ
- 辛くない
- 食べる場所
- どこでも。山小屋レストランからカフェまで
- ベスト時間
- 昼。もともとは朝食だった
- 一人前
- 直径20cmほど。単品なら十分に主食
- バリエーション
- ベーコン入り・チーズ入り・目玉焼きのせ
- 注意
- 付け合わせとして頼むと量が少ない。単品を明示する
01一口目に来るもの
フォークを入れると、外側が音を立てて割れます。かりっという、揚げものに近い音。
その下から、ほくほくした内側が現れる。じゃがいもの繊維がほどけて、バターの香りが立ち上がる。
味つけは塩だけです。それ以外はほとんど何も入っていない。だからじゃがいもの質と焼き方がそのまま出ます。
上に目玉焼きが載っていれば、黄身を割って絡める。塩気とバターと卵黄——たったこれだけで、山を一日歩いた体に染みる。

02味と食感
じゃがいもは前日に茹でて、冷蔵庫で一晩冷やすのが定石です。冷やすことででんぷんが落ち着き、削ったときに崩れない。生から作ると水っぽくなります。
削り方は粗め。太めの千切りにして、バターかラードを引いたフライパンに敷き詰め、押さえながら焼く。ひっくり返すのが最大の難所で、皿をかぶせて反転させる家庭が多い。
外はかりっと、中はふんわり。この二層をどう作るかがすべてで、火が強すぎると外だけ焦げ、弱すぎると全体がべたつく。
バターで焼くと香りが立ち、ラードで焼くとコクが出る。山小屋のロシュティがうまいのは、たいていラードを使っているからです。


じゃがいもは前日に茹でる
スイスの家庭でロシュティを作るときの鉄則は、「gschwellti」——皮つきで茹でて冷ましたじゃがいもを使うことです。
茹でたてを削ると、でんぷんが糊のようになって団子になる。冷やすとでんぷんが再結晶して、削っても粒が立つ。
生のじゃがいもから作る方法(ドイツのカルトッフェルプッファーに近い)もありますが、スイスでは邪道とされます。
つまりロシュティは前日から始まっている料理です。だから朝食として成立した——前の晩の残りを翌朝焼くだけでよかったから。



第 二 章
国を二つに分ける「レシュティの溝」
肉料理の付け合わせとして出てくる形。ソースを吸わせながら食べる
03食べ方と組み合わせ
単品なら、目玉焼き(Rösti mit Spiegelei)が最も定番。黄身を割って全体に絡めます。
付け合わせとして出てくる場合は、肉のソースを吸わせながら食べる。チューリッヒ風クリーム煮(Zürcher Geschnetzeltes)の相棒としてはこれ以外考えられない、というのがスイス人の共通認識です。
ベーコン入り(Rösti mit Speck)、チーズ入り(Rösti mit Käse)、りんご入り(Apfelrösti、甘い版)などのバリエーションがあります。
ナイフとフォークで切り分けます。手では食べません。


レシュティの溝——スイスを言葉で二つに割る、じゃがいもの名の境界線。Röstigraben
04レシュティの溝(Röstigraben)
スイスのドイツ語圏とフランス語圏の境界を、スイス人は「レシュティの溝(Röstigraben)」と呼びます。
ロシュティはベルン州で生まれた、ドイツ語圏を代表する料理です。フランス語圏では食文化も政治的傾向も違う。第一次世界大戦のころから使われるようになったこの言葉は、いまも新聞やテレビで普通に登場します。
国民投票で独語圏と仏語圏の結果が割れると、翌日の見出しに「Röstigraben」の文字が躍る。料理の名前が政治用語になっているのは、世界的に見てもかなり珍しい。
ちなみに実際の境界線はフリブール州のあたりを南北に走っています。ツェルマットのあるヴァレー州は、その両側にまたがっている稀な州です。



05注文のしかた
ドイツ語圏では「Rösti(レシュティ)」。フランス語圏でも同じ綴りで通じます。日本では「ロシュティ」表記が定着していますが、現地音は「レシュティ」に近い。
重要なのは、単品なのか付け合わせなのかをはっきりさせること。メニューの「Beilage(付け合わせ)」欄にあるロシュティは小さく、CHF 8前後。主菜欄にあるものが単品です。
目玉焼きをのせるなら「mit Spiegelei(ミット シュピーゲルアイ)」。
量は多め。スイスの主菜としては珍しく、これだけで満腹になります。
06どこで食べる
スイス中どこにでもあります。これがロシュティの強みで、山小屋、駅の食堂、カフェ、高級レストランのどこでも出てくる。
ツェルマットなら、登山鉄道の山頂駅レストランでも食べられます。標高3,089mのゴルナーグラートで食べるロシュティは、値段はともかく記憶に残ります。
値段の幅は大きく、山の上ほど高い。町なかならCHF 19、山頂駅ならCHF 26以上。
節約するなら、スーパーで冷凍・パック入りのロシュティがCHF 3〜5で買えます。宿にキッチンがあるなら焼くだけ。
ベルン州へ行く機会があれば、本場のロシュティを食べ比べる価値があります。

07歴史と背景
ロシュティは16世紀のベルン州で、農民の朝食として生まれたとされます。
畑仕事の前に、前の晩の茹でじゃがいもをラードで焼いて食べた。腹持ちがよく、材料は一種類だけ。貧しさの料理という点では、台湾の魯肉飯や肉圓と同じ構造です。
じゃがいも自体がヨーロッパに広まったのは16〜18世紀のことで、スイスの山村では長く飢饉対策の作物でした。痩せた土地でも育つという一点で、アルプスの生活を支えた。
それが20世紀に入って国民食の地位を得ます。朝食から昼食・夕食へ、農民の食べものからレストランの主菜へ。台湾の鶏排が1990年代に生まれたのとは逆に、こちらは古いものが格上げされた例です。
08似ている料理
ドイツのカルトッフェルプッファーは生のじゃがいもを削って焼くパンケーキ。卵と小麦粉が入ることが多く、食感がまったく違います。
ユダヤ料理のラトケスも生のじゃがいもから。ハヌカーに食べる揚げもの。
アメリカのハッシュブラウンは最も近い。ただし細かく刻んで揚げるので、ロシュティのような「一枚の塊」にはなりません。
韓国のカムジャジョンはすりおろして焼くのでもちもちする。
「じゃがいもを削って焼き固める」という発想は各地にありますが、前日に茹でて冷やすという一手間を入れるのはスイスだけです。
09豆知識
・スイスにはロシュティ専用のフライパンがあります。浅くて底が厚く、ひっくり返しやすい形。
・ひっくり返す瞬間の失敗を防ぐため、専用の蓋つきプレートも売られています。かぶせて反転させる道具。
・スイス航空の機内食にロシュティが出ることがあります。国を代表する料理としての扱いです。
・「Rösti」の発音は「レシュティ」が近い。日本で「ロシュティ」と呼ばれるのは、フランス語読みの影響と言われます。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Klosterstübel St. Marienstern – Rösti-Küchengruss.JPG / Dr. Bernd Gross / CC BY-SA 4.0
- 02/Flickr – cyclonebill – Hakkebøf og rösti.jpg / cyclonebill / CC BY-SA 2.0
- 03/Bibeleskäs auf Rösti (1).JPG / Dr. Bernd Gross / CC BY-SA 3.0 de
- 04/Geriebene Kartoffeln für Rösti in der Pfanne.jpg / Poupou l’quourouce / CC BY 4.0
- 05/Geriebene Kartoffeln für Rösti in Schüssel.jpg / Poupou l’quourouce / CC BY 4.0
- 06/Klosterstübel St. Marienstern – Rösti 2.JPG / Dr. Bernd Gross / CC BY-SA 4.0
- 07/Leberli mit Rösti.JPG / Claus Ableiter / CC BY-SA 3.0
- 08/Flickr – cyclonebill – Hakkebøf med rösti og grillet squash og forårsløg.jpg / cyclonebill / CC BY-SA 2.0
- 09/Flickr – cyclonebill – Hakkebøf, røræg, rösti, pølser og bacon.jpg / cyclonebill / CC BY-SA 2.0
- 10/AaIMG 8495 (2) Kassler mit Rösti und Dunkelbiersauce.jpg / Xocolatl / CC BY-SA 4.0
- 11/AIMG 1100 Zürcher Geschnetzeltes mit Rösti.JPG / Xocolatl ( talk ) 21:25, 12 April 2022 (UTC) / CC BY-SA 4.0
- 12/AIMG 1101 Zürcher Geschnetzeltes mit Rösti.JPG / Xocolatl ( talk ) 21:28, 12 April 2022 (UTC) / CC BY-SA 4.0
- 13/Kartoffelrösti.JPG / Brücke-Osteuropa / CC0
価格は2026年8月時点のツェルマット周辺の相場の目安です。







